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オッペンハイマーのもんてすQのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.3
科学者として人間として米国民としての葛藤を描いた3時間

サイエンティストも政治(立ち回り)がうまくできないと酷い目に遭うし、交友関係とかのバックグラウンドを探られて“キャンセル”されてしまうというのは何年経っても変わることがないのな

主人公が自らの行いで途方もない人数の市民が犠牲になったことへの罪の意識と、パンドラの箱を開け世界を変えてしまった恐怖はよく表現されている
そう考えると、あの役どころに幸の薄そうなキリアン・マーフィーって良いキャスティングだったと思う

ただカット割りがものすごくて、映画そのものの重厚な雰囲気を削いでいた
時系列も分かりづらい上に登場人物も非常に多いので没入感を味わえず、ストーリーを追うのが難しい
映画ってまず『こういう構成で観せていきますね』みたいなのを観客に理解させなければならないと思うんだけど、それができていないんじゃない?
加えて後半部のロバート・ダウニー・Jrにスポットライトが当たる“オッペンハイマー事件”の辺りからは一種の勧善懲悪ドラマのようにも感じてしまって(史実には沿ってるんでしょうけど)、正直しらけた
主人公をヒロイックにし過ぎていると思った

・「アタシあんたとは絶対握手しないわよ😡」なエミリー・ブラントよかった
「戦えよお前は〜!!!😡😡😡」と旦那にけしかけていたけど、自分もしっかり戦ってて最早旦那より勇ましかった
ずっとカリカリしてて一瞬も笑顔を見せなかったと思うんだけど、もうちょっと出番があったって良かったよね
・『若草物語』やってたおてんばフロピューがこんな体当たり演技をしているのを観るのは、なんだか複雑だった
・主人公の授業を唯一ひとり受講しに来た出来の悪い学生さん面白かった
『まあ頑張ってね』みたいなのを2回も言われてる人
・アメリカ人ではなくイギリス人やアイリッシュもメインにキャスティングした意図はあるんだろうか?たまたま?
・そういえばノーラン監督は本作のことでクロ現の特集にも出てて驚いた
ちゃんと日本のメディアにも出てくるあたり、自分の創作物への誇りというか、矜持みたいなのがある人なんだなと思った
まあ本作でキャストがプロモ来日どころかインタビューでさえ絶対できないから、PRとしてはコレが正解なのか

⭐︎

(個人的にノーランは苦手だけど)とても意義のある作品だとは思うし、主人公の葛藤やトルーマンの描かれ方を見るに、これはハッキリと反戦映画だろう

ただ、海外向けに報道された『オッペンハイマーを観た日本人へのインタビュー』みたいなニュースに「日本軍がやったことを考えれば仕方ないだろ」「731部隊はもっとエグいぞ」みたいなコメントが多く、なかなかやるせない
確かに今の日本人は国内で大戦中に起こった空襲や貧しさについて学ぶ機会こそあっても、ジャワやビルマやニューギニアで何があったかまで知ってる人は少ないと思う
それでも、あの大規模の残虐な民間人殺戮を“日本軍の行い”を持ってwhataboutismするのは...

私が通っていた大学は広島出身者が多く「俺は被爆三世」「あたしも」と話している人が何人かいた
これは単に祖父祖母世代が原爆からサバイブしたというだけじゃなくて、自分や家族や我が子に被爆が由来の白血病などのリスクを未だに恐れているというのもあると思う
本作でも描かれていた「どのような危険性があるのかわからないもの」を使ってしまった影響は現在にも及んでいるかもしれない
それを考えれば「原爆は仕方ない」みたいなことを言うのは、私は...
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