アカデミーの作品賞を横綱相撲で勝ち取るような重厚なドラマの系譜にまで、ノーランはバットマンの世界で成し遂げた深化をもたらしてしまった。
「メメント」から飽きることなく繰り返される入り組んだ時間軸、ブラックホールを見せるという矛盾を叶えた「インターステラー」を想起させる破壊的なエネルギーのビジュアル化、ヴィルヌーヴにしか出せないと思っていた劇場を揺るがす絶対的な音圧。緊張を強いるサスペンスフルな展開も、周囲の熱狂とは裏腹なオッペンハイマーの心象を映す凝った演出も、切れ味鋭かった。
オッペンハイマーによって火薬の爆弾が旧世代へと追いやられたように、保守的にまとめられがちなこのジャンルが現代の映画にふさわしくアップデートされたように感じた。
願わくばここで描かれた歴史的事実を頭に入れて臨んでいたら、迷子にならずのめり込めただろうにと、そこだけすごく悔やんでいます。