anq

オッペンハイマーのanqのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
 ツイッターかと思った。
 かつては世界大戦とかいう欧州の狂気を終わらせた世界一の有名人が、私怨のせいで同国人から手のひらクルーされて、べつに己が広島や長崎で被爆したわけでもないクズ業の業者から原爆の死者数を殴り棒にアンフェアに責められ、水爆開発(とそれに伴う東西の核のエスカレーション)に反対だったこともあって、原子力委員会諮問委員への彼の再任は拒否される。劇中には全く出てこないが、この1954年6月というタイミングはビキニ環礁で水爆実験があってから3か月後という時期であり、その2週間ほど前には日本の大阪にもそのフォールアウト(死の灰)と思われる核種を含んだ雨が降ったことが記録されており、4か月近く後には久保山愛吉さんが、急性放射線症というよりはそれが引き起こした造血機能障害の治療のために行われた、売血の輸血に由来するウィルス性肝炎で死亡している。にもかかわらず10年後のライシャワー事件が防げなかったあたりは歴史の皮肉であるが、この映画とはぜんぜん関係ない。
 じつはトルーマンの言葉が救いであって、「恨まれるのは落とした人であって造った人じゃない」というのがまさにその通り。だって世界大戦は同時代の誰にとっても苦しくて、誰かが終わらせる必要があったから。アメリカから見てもすでに必敗の状況にあった日本に落とされた二発の原爆は、劇中では仔細は描かれないが、確かに大戦を終わらせる方向には作用した。劇中での死者の見積もりは、まあ過少な気はするが。
 彼を私怨から責めた腹黒いおっさんことルイス・ストロース(映画とは関係ないが、ビキニ環礁での第五福竜丸の被災をなかなか認めなかったり、被災がバレた後にはスパイ船呼ばわりしたりした)も後の大統領であるケネディやジョンソンを含む上院議員の反対にあって商務長官にはなれず、これが彼の政府でのキャリアの終わりとなった。あれだけ策謀を巡らせたわりにはオッペンハイマーという一定の倫理観はあった人を追い落とすことに成功しただけ。上の経緯を踏まえると、日本人としてはちょっとざまぁ感はある。
 いまも戦争が終わらないことが端的に示すようにいつまで経っても人類は愚かだが、いちおう刻を未来に進めるために苦闘している人はいる。でも人々はそんな人を正当に評価できているかというと、時におかしな方向に進んだりするのはまさに今みなさんも見ている通りで、そうしたどうしようもなさは昔もそうだったんだなあというのが個人的感想である。
 ノーラン作品としてどうとかは他の方にお任せします。
anq

anq