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オッペンハイマーのitslikeweedのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.6
・舞台は第二次世界大戦真っ只中のアメリカ
・主人公は原爆の生みの親
・その原爆が引き起こした広島長崎での悲劇

これだけの要素と共に製作を進めながらも、あくまで「歴史に翻弄された一人の物理学者の苦悩」を描く、という姿勢を崩さず、毅然とした態度でもって本作を作り上げたノーラン。彼のこの我慢というか、一種の執着心こそが、本作を"特別"なものへと昇華させているように感じた。

戦争映画でも反戦映画でもない。本作はあくまで「伝記」であるからこそ意味がある。
伝記であるからこそ、我々観客は無意識のうちにオッペンハイマーの視点に立たされ、彼と共に歴史の波に翻弄されながら、苦悩し、広島と長崎で起こった惨劇が「成果」の一言で片付けてられてしまう一種の"違和感"を味わうことになる。

オッペンハイマーの半生を"観ている"側でありながら、その彼の心情の変化や彼の元へと押し寄せる様々な苦しみを、まるで自分自身が"体験"しているかような不思議な感覚。
1945年8月に広島と長崎で起きた二つの虐殺が、「遠い異国の地で達成された祖国の偉業」であるという、被害者側の視点でしか原爆を見つめてこなかった私たち(日本人)には理解し得ない未知の感覚。理解し得ない原爆との無意識的な距離感。

「真新しい過去」の話を見つめ続ける3時間。
大きな起伏のない作品なのにも関わらず、あっという間にその3時間は過ぎていた。
何とも形容し難い、本当に凄い映画体験だった。
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