Yuu

オッペンハイマーのYuuのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

傑作。
第二次世界大戦中にマンハッタン計画を指揮したオッペンハイマーの半生を描いたこの作品。こんな言葉で片付けたくはないけれど、終始彼の「人間臭さ」を感じた。科学者としての知的好奇心の追求と尊厳を示さなければ生き残れない時世。情欲。変わらないものと変わったもの。真意か不本意か。本音か建前か。虚勢を張ってるつもりなのか、それが彼の人間性なのか。全てを知ることはできないけど奥深いと言う人物像が私には刺さった。

原爆の開発は国家プロジェクトであって、トップシークレットであるが故に、仲間の研究者たちを集める際には嘘や欺瞞をタネにヘッドハンティングを行い、家族や愛する人にさえもこの計画のことは口外してはならないという葛藤から彼は、傲慢で偏屈で突拍子もない人物というのを終始演じ続けなければならなかったのかもしれない。真実とか本心みたいなものをストレートにぶつけても通用しないと分かっている相手に対して、状況を一つでも変えるために彼は踠く。

印象的だったのはトリニティ実験の後もその時の爆発が彼の脳内でフラッシュバックする場面が何度か見られた場面だった。尋問や聴聞会の際に、その実験がフラッシュバックして、自分が何を聞いていて何を話しているかわからなくなっているという描写が秀逸だと感じた。
それと、彼が量子物理学の研究のためにゾーンに入る瞬間も映像体験として面白かった。彼の脳内が抽象的ではありながらも視覚化されるんだけど、常人には理解できないほど脳を働かせている描写なのか、とか、はたまた自分たちの脳内もこんな感じで処理されているのかな、と感じて面白かった。

日本で生まれた日本人として、この作品についての受け取り方として複雑な感情があるのは確か。実験が成功したことで喜び合う人物たちの描写、続く戦争の抑止力とするために原爆投下の候補地を話し合う会合の場面、ラジオで伝えられる広島長崎の惨劇など、実情を軽く他人事として受け止めている感は拭えなかった。しかし、オッペンハイマーは話の通じないものたちに筋を通そうと葛藤しているのはとても伝わってくる。核兵器というものへの認識は彼の中にあるものが全てなのかもしれない。

キャストで言うとキリアン・マーフィーの演技は凄まじかった。映像として残っているオッペンハイマーそのものだったし、彼の感情や思いを表現する演技は素晴らしいと思う。
その他キャストも鑑賞前に見ていたドキュメンタリーで登場した実際の人物たちとそっくりだと感じたのでリアリティを突き詰めたこのキャスティングは大当たりだったと思う。

総じて、この作品を鑑賞して良かったと思っているし、映像表現やお芝居にも満足している。また、歴史や世界情勢について考えるきっかけとなった。知らないことを知らないまま過ごす、見て見ぬふりをすることはすごく怖いことだとも感じたのでその点この作品の影響は大きいものだと感じている。
NHKのドキュメンタリー「映像の世紀バタフライエフェクト」は鑑賞前に視聴していて良かったと思う。原作にあたる書籍や彼についての情報を集めてみようと思う。

IMAXで鑑賞できたのも良かった。
Yuu

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