ロアー

オッペンハイマーのロアーのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.1
オッペンハイマーの人となりや原爆誕生の歴史も何の知識もなしに観た。
ノーランという時点で今作の鑑賞を決めていたから、キャストすら主役がキリアン君ってことしか知らなくて、ロバダウが出ていることも最近になってから知ったくらい本当に何ひとつ分からないまま観た。
いざ映画が始まったら「え!ジェームズ・ダーシーが出てる!ケネス・ブラナーも出てきた!」と、次々知った顔が出てくるからびっくり。豪華過ぎる。

「オッペンハイマー」という映画、そしてオッペンハイマーという人物に対しては、"つまりは理論屋で、所詮は不倫するような男だった”というのが私の中の全てだったし、それで納得した。頭の良いバカってやっぱりいるよね、という最悪の事例。「I told you so...」とか「こぼれたミルクは~」って背後からチクチク言いたくなるような男だった。

そもそも伝記映画をノーランが撮るってどういう風に???とずっと疑問に思っていて、前半はキャストの豪華さ以外はノーランらしさが良く分からないままでいたけど、後半の畳み掛けが完全にノーランで圧倒された。やっぱり点と点を繋ぐのが本当にうまい変態。これまでの作品のような"時間"で観客を翻弄するような構成とは違ったけど、変態の本領発揮の後半は、過去の出来事がフラッシュバックのように結果へと結びついていて、そのほんの短いシーンの挿入が何よりもオッペンハイマーという人物とは何だったのかを物語っていて流石だった。

それと日本での公開が随分未定のままだったから、どれだけオッペンハイマーや原爆を賞賛している映画かと思ったら(実際、そういうのが無理だと思う人は観ない方が良いみたいな声も公開前からあった気がするし)全然そんなことなくて、ドラマチックでありつつ淡々としているという、矛盾しているようでしていない描かれ方に感じた。
原爆ではなく、あくまでオッペンハイマーの映画であって、その点では完璧なさじ加減の映画だったと思う。
キノコ雲の描写はすごく美しいものとして描かれていたけど、あの時のオッペンハイマーの目には間違いなく美しく見えていたに違いないと思うと、後半のあれこれに刺さってくる。

ロバダウも、言うてあの人元々演技はずっとうまかったし、何をもってして今回、アカデミー賞助演男優賞を受賞するような特別さがあったのだろう?って目線で見ていたんだけど、後半で「なるほど、これね~」と唸らされた。なんかさ~もう、こっちこそよっぽど「哀れなるものたち」ってタイトルがふさわしいように思えるような人たちばっかりの映画だったね。ヨルゴスの本家「哀れなるものたち」と違って、こっちはかわいげもなかったけど。

あと、ノーランの映画って女性の扱いがわりと雑で今回も雑には違いなかったものの、フローレンス・ピューやエミリー・ブラントがそれを上回る演技を見せてきてむしろすごく印象に残った。
フローレンス・ピューはビジュがいつもと違い過ぎて一瞬誰だか分からなかったけど、あの声ですぐに分かった。ホント大好きな声。
エミリー・ブラントは劇中で一番物事を見極められていた人のように感じたけど、それでも"オッペンハイマーの妻"というバイアスはバッチバチにかかってたし、決して男より前に出てくることはない"あの時代の女性"というのもあったんだろうな。

観る前から3時間は嫌だと散々ごねてお気持ち表明しかけていたものの、3時間を掛けるに値する映画だったから退屈せずに観れたし、これならまた観てあげても良いよ(何様)。
ただし今回は時間じゃなく、登場人物の多さでノーランに混乱させられたので、2度目を観る時はしっかり人物と名前を頭に叩き込んでおかないと。
だって、好きな俳優の役名しかまともに覚えられなかったもの!
会話に名前を出してくる時は、画面の端っこにワイプで顔と名前と役職を出す仕様にして欲しい。ディスクを販売する暁には、どうかご検討のほどよろしくお願いします。
ロアー

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