このレビューはネタバレを含みます
映像・音響・俳優は一級品。クオリティ高すぎて他の映画観れなくなるレベル。
戦争映画でも、原爆映画でもなく、オッペンハイマーの映画。日本人は複雑な気持ちになる人も多そうだけど、これはアメリカ人の一科学者の物語なので日本の描写はなくて当然。
人物に寄って描くのは、スコセッシに通ずるものがあるように思うけれど、やっぱりノーラン節。時間の散らばりと音の使い方、画より映像美というところが全く違う。
時間軸は主に4つ展開されるけれどそれぞれが飛び飛びにつながり、またメインの1軸の中でも飛び飛び。またオッペンハイマー自身の空想も相まって、ややこしさMAX。それでも違和感ないのは、繋ぎ目が美しいからかな。さすがノーラン。
オッペンハイマー自身の不安定さ、稚拙さ、カリスマ性、研究者としての信念と1人の人間としての信条、傲慢さ、様々な面が詳らかに描かれる。彼の原爆に対しての思いは、研究者としての気持ちと一人間としての思いがぐちゃぐちゃに入り混じり、矛盾していく。
そして、オッペンハイマー自身は原爆で多くの人の命を奪った良心の呵責で苦しむものの、結局彼を没落させたのは原爆ではなく、むしろその後の米露の対立による政治的なものであるということは皮肉とも言える。人間より科学を学んだ彼の自業自得なのか、ただただ不運なのか…。
情報量が多いのに説明が不足しているのが難点。これはノーランが悪いのか、不勉強な鑑賞者が悪いのか。まあノーランは、これくらいは勉強しとけよというスタンスなんだろう。
総じて良いし、観るべき映画でした。