さはら

オッペンハイマーのさはらのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.7
被爆国日本に生まれて
小学校6年生で広島長崎に
送り込まれた経験を半数近くが持つ
我々にはやはり特別な映画だと思う。

骨太な反戦反核映画ではない。
このテーマでいくなら最低限
そうであらねばならないだろという
認識やオーダーは主張していくべき
だと思う。


この映画はオッペンハイマーの話だった。


この映画の最も大きな議論が
「広島長崎の直接的な描写の有無」
なのは少しもったいない話だと思う。
オッペンハイマーはその現地の惨劇を
直接見ていない。

(じゃあ)目を背けたくなるような8.6 8.9を
実物なりノーランの表現で差し込んだとして
それは何なのか。想像力と言ってしまえば安直だけど、
こわい、酷い、だから原爆良くない
って軽薄だと思う。
身体的刺激を受ける事より大事な事あると思う。
手をあげる躾を僕らは過去のものにしたやんか。
広島の平和記念資料館から人形とか爪とかが
撤去されたのも違うと思うけど。


たけしが暴力映画云々って言われた時と
同じ感じ。


とにかく
実在したプロメテウスの話に感じたし
それを描きたかったんだろうなと思った。


世界で今見つけ出されようとしている
壮絶なエネルギーを持つ“装置”
「ナチスなんかに作らせるなら!」
科学者としての好奇心でフワッと
必要悪の人柱をかって出たロバート。
空前のスケールで進む前人未到の
プロジェクトにのめり込む。

計画は成功。ヤッタァ!
でも完成させてしまったのは殺戮兵器。
親権はアメリカ政府にある。
起きてしまった広島・長崎の惨劇。
天才科学者も政治家としては赤ちゃん。
装置製作過程で通るはずだった
良心の呵責も今更気付いて狼狽える
人間としてもモロいロバート。

今更生半可に原爆という事実に
責任を感じて、水爆を止める。
あくまで親権は政府。彼はあくまで業者。
今更親権を求められたら政府も面白くない。
因縁をつけられて排斥される。


世界の誰かが背負うプロメテウスの
罪を自ら背負ったオッペンハイマー
短慮な動機は別として、歴史上
特別な存在だと思う。

なんかとんでもない事
やっちゃったかも追体験映像
としては表現も新鮮だったし良かった。
「戦争終わらせたで!」「ドイツにも
落としたかったでぇ!」とか、心と
乖離していく口が勝手にどんどん喋る感じ。
得体の知れない巨大な罪悪感。
渡部さんとかフジモンとかも
あんな気持ちだったのかな

本当に別の話よそれまじでわかってるから。



凱旋スピーチ、祝福や歓声が
広島長崎とリンクしていくあの場面と
ラストはやっぱりノーラン。


あと「困難を乗り越えて来た」って
嫁さんの事信頼してるみたいなシーン
普通にヤバい。あいつ。人死んでるねんで。


いやまじで人死んでるねんで
さはら

さはら