Maoryu002

オッペンハイマーのMaoryu002のレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.0
科学者オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)の半生を、原爆完成に向かう1940年代とソ連のスパイ容疑をかけられた1954年、彼を陥れたストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)の公聴会が開かれた1959年と、時代を交錯させて描いた作品。

先日の「デューン 砂の惑星 PART2」とはまた違ったIMAX効果を感じられた作品だった。

ほぼ全編、淡々とした会話劇と心理戦という印象。顔のアップだけに焦点を合わせて、背景を思いっきりぼかす演出が多くて、大写しのキリアン・マーフィーは顔演技に神経すり減ったろうなー。

もちろん、静寂からの爆音がショッキングな実験、トリニティには圧倒されたけど、とにかく情報量が多く、場面転換が早くて頭はフル回転!
ロバートの視点、ルイスの視点、カラーと白黒と凝りすぎな映像の後ろに、クリストファー・ノーランの満足げな顔が浮かんでくる。

一方で、登場人物の多さは、ケネス・ブラナー、ゲイリー・オールドマン、マシュー・モディーン、ラミ・マレック、ジョシュ・ハートネット、トム・コンティ、オールデン・エアエンライクと見知った俳優を惜しみなく使ってくれたことで、だいたいキャッチできた。

一番不気味だったのは諜報将校演じたケイシー・アフレック。すぐにでも暗殺されそう。笑
そして、ジェイソン・クラーク演じる弁護士の憎たらしいこと!超勝気なキティが彼と対等に渡り合うところだけがこの映画で唯一、爽快だった。

1954年の密室で英雄の過去の不誠実、嘘、器の小ささが明かされて、やがて長い長い時系列のスパゲッティは収束し… ラスト10分の見事な脚本、観客への投げかけの完成度には圧倒された!
後に残るはとてつもない疲労感。

以下、ネタバレ的解釈あり。

核開発競争の否定はしっかり伝わったけど、心に残ったのは、人間の不完全さと罪への向き合い方だった。

愛人の死を嘆くロバートにキティは、“あなた自身の罪に(私の)慰めを求めないで!自分で対処しなさい!” と罵る。結局、寄り添うんだけど。
アインシュタインは、“君を讃える人達は君ではなく彼ら自身の贖罪と尊厳のために集まってくる、君も帰結と向き合うことになる” と締めくくる。
ロバートが背負うのはジーンの死、そして何より原爆を生み出し、後戻りできない秩序の破壊を招いたという、とんでもなく重い事実だ。

ただ、被曝国民としては、彼の罪への向き合い方、内面描写は少し物足りなく感じてしまった。まあ、“そういう男だったんだよ” と言われたらそれまでだけど。
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