やむやむ

オッペンハイマーのやむやむのネタバレレビュー・内容・結末

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

凄い映画だった。これは確信できる。
ただ、この映画を"面白かった"と言ってしまってよいのかはまだ分からない。

この映画は、天才理論物理学者オッペンハイマーが様々な科学者を集めマンハッタン計画を進めるパート、オッペンハイマーが罪の意識に苛まれストロースに嵌められてしまうパートの二部構成となっている。

作中オッペンハイマーは、人類に火を与えて永遠に岩に縛り付けられ鳥に臓物を突かれる苦しみを与えられたプロメテウスに重ねられる。オッペンハイマーが核爆弾を作り出す前半部はプロメテウスが人に火を与えるまでの話であり、ソ連のスパイとして断罪される後半部は人間に身に余る程の強大な力を授けたことへの罰を受ける話と対応しているのだ。

前半部はナチスに先を越されないように原子爆弾開発を進めていくという内容で、荒野の真ん中に一から街を作り上げ、優秀な科学者たちを集めて広角泡を飛ばす議論を繰り広げる様が描かれており、まさに世紀の一大プロジェクトといった様子で見ていて胸が躍った。膨大な労力をかけて造られた理論上の巨大兵器は、トリニティ実験で科学者たちにその爆発の威力を見せつけ、現実の兵器として運用されることとなる。そして原爆は投下された。
このあたりから物語がオッペンハイマーの苦悩へシフトし始める。自分たちが作り上げた兵器が広島、長崎で膨大な数の人間を殺したという事実。核爆発は世界を破滅へと導くのではないかという疑念。そんな中、オッペンハイマーはソ連のスパイとしてFBIへ密告され、過酷な取り調べの中で身の潔白を弁明することとなる。

とりあえず印象的なシーンを列挙しておく。
・冒頭のオッペンハイマーの脳内イメージ
原子が放射線を飛ばすイメージ、エネルギーが波として振る舞っているイメージなどなど印象的。とにかく遠大で宇宙とのリンクを感じさせるイメージ。

・ジーンとの情事の中サンスクリットの「私は世界を破壊する者」という文献を読むシーン
ヴェーダの文献に登場するインドラの矢が核爆弾の比喩だとかいう話を聞いたことがある。それが事実ではなくとも原子爆弾による破壊はまさに神話のスケールであり、オッペンハイマーが世界を破壊することのできる兵器である原子爆弾を作り出すことを暗示している。

・ボーアによる忠告
純粋に物理の原子分野で学んだボーア先生が登場したのが自分の中で盛り上がった。

・トリニティ実験のシーン
爆発までのカウントダウンは緊張感で息が詰まった。劇場内でも皆んなが息を呑んでるのが分かった。
瞬間、閃光で画面が白飛びした。遮光ガラス越しに目を凝らすオッペンハイマーの視線の先には巨大な火の柱が立ち上る。彼の呼吸音だけが聞こえる。彼の息遣いのなか永遠とも思える時間、火の柱が天を突く様子が画面いっぱいに映し出される。それを唖然として眺める面々。
爆風が各観測所に届き、遅れて凄まじい爆発音が響いた。
見ていてこれほどまでに緊張したシーンは初めてだった。

・日本に原爆を投下した後のスピーチのシーン
オッペンハイマーはプロジェクトの成功に熱狂する科学者たちにスピーチをする。成功を祝う言葉をかけるも、人々の声が遠くなり自分の呼吸音しか聞こえない。会場は閃光に包まれた。
これはトリニティ実験でのシーンと同じ演出だ。見ていて鳥肌が立った。オッペンハイマーの無意識の罪悪感、あるいは恐怖を象徴するシーンだったのだろう。

・オッペンハイマーとアインシュタインが池のほとりで何かを話すシーン
結局、先輩科学者であるアインシュタインは池のほとりで無限の責苦の終わらせ方をオッペンハイマーに示していたのだった。
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