ジェフリーハラダ

オッペンハイマーのジェフリーハラダのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
3時間、オッペンハイマーの伝記を映像で読んでいるような体験でした。情報量が多く、会話も多く、簡単には飲み込めないが、見ごたえはありました。

ざっくりいえば、最初の1時間でオッペンハイマーが学生からマンハッタン計画に関わるまで、次の1時間が核爆弾の実験に成功するまで、最後の1時間が赤狩りの時代の諮問委員会とのやりとりが描かれます。

ノーランらしい異なる時間軸の交錯はあるものの、今回はそれほど複雑に感じなかった。評伝を会話劇にしているので、映像的な醍醐味は少なく、それをときどきアーティスティックな映像と音響で盛り上げようとしている感じです。

スピルバーグの『シンドラーのリスト』と同じで、いまだにユダヤ人脈の強いハリウッドで、アカデミー賞を総ナメするには、ヨーロッパからナチスに追われてアメリカに渡り、ナチスの進撃を止めるために原爆開発に携わったオッペンハイマーの伝記は、ぴったりの題材だったのでしょう。

この人とこのテーマに関心があれば没入できるだろうが、自分はそれほど夢中になりませんでした。2時間目以降は、オッペンハイマーが原爆プロジェクトを進める政治家のように動くドラマばかりで、原子を核分裂させる研究の革新性が何なのか、彼が生み出した怪物の平和利用の可能性はどうあるのか、その肝の部分を映像や会話で見せてほしかったです。

アインシュタインが何度も登場し、ふたりの会話が映画のなかで重要な役割を果たすが、数式を提示したり、科学的な議論をしたりする姿が描かれるわけではありません。そういう意味では、主人公は物理学者でなくてもよく、戦時中に功績があったが、自分が生み出した兵器の威力に悩み、戦後は赤狩りで不遇な時期もあった人の伝記映画にとどまっていると思います。