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オッペンハイマーのおおたのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
4.4
傑作。

ノーラン得意の時系列操作は、かなり頭を使うし、登場人物を全然把握できないまま進むが、法廷ミステリーとしてはかなり有効に働いている。

「核爆発が大気へ引火し世界を飲み込む」という原爆開発過程で懸念されていたリスクが、ラストに再度言及される点には鳥肌が立ったし、泣いてしまった。
同様に、エミリー・ブラントから主人公への「自分で罪を犯しておいて同情して欲しいの?」は、フローレンス・ピューの件以外にも作品全体にクリティカルに効いていて、セリフが多層的な意味を持つ箇所が多い。

日本から「日本描写がなく原爆の悲惨さが描かれていない」といった批判が多いが、原作題名は「American Prometheus」であり、そもそも原爆の悲惨さが主題ではなく、人類に火を授けたプロメテウスのその後の責苦が主軸であって、その批判はズレていると思う。
そして日本公開が遅れた事に対して、きちんと考えるべきと思う。

ただ、放射能の人体への影響に関して、被害側はもちろん加害側への影響についても殆ど言及がないのは、意図的なのか、もしくは「ダークナイトライジング」でのとんでもエンディングから推測するに、ノーランの見識の低さによるものか、、

自分は「バットマンビギンズ」公開時に、キリアン・マーフィーの眼鏡姿に中二病的にワナビーになっていたので、その彼がアカデミー主演男優賞を取った事はとても感慨深い。

ホイテ・ヴァン・ホイテマの撮影はもちろん最高、駆け込みで映画館で見れてよかった。

ロバート・ダウニー・Jr.は悪役として素晴らしい演技だったが、アカデミー賞の登壇時のキー・ホイ・クァンに対する態度から無意識のアジア人差別を見てしまい、その点で、翻って本作の役がよりハマり役に見えてしまうのは悲しい皮肉。
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