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オッペンハイマーのこーたのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.9
作品としてはさすが物理に強い監督らしく科学者目線で鬼気迫る展開、カメラワークが没入感を生み3時間を短く感じさせた。音はちと暴力的で心臓にわるい笑 ストローズの勘違いがいちばん好き。
原爆を作ったオッペンハイマーの栄光と葛藤。量子力学で名を挙げた彼は国家プロジェクトのリーダーとして核分裂を応用した最終兵器を作り上げる。優れた手腕で曲者科学者たちをまとめ上げ世紀の実験を成功させる彼は原爆の父として、戦争を終結させた英雄と謳われる。しかし彼は結局兵器を作っただけにすぎず、使用判断は国に委ねられる。大量殺戮を引き起こしたことで胸を痛めるわけだが、彼自身もその結末は薄々わかっていただろう。戦争真っ只中でドイツやソ連に先を越される懸念があれば国家への忠誠心として必死に取り組むことはやむなし。最終的には国家反逆罪の疑いをかけられ汚名を着せられる。散々国に利用され、都合が悪くなると排除する、旧体制への怒りも少なからず感じられた。

日本人的な感情論コミコミで述べると、やはり気持ちのよくない描写は多い。なーにが京都は新婚旅行でも行ったから落とさんとこ、やねんとか。日本公開が遅れたのもそういう懸念と言える。
会話のリアリティはわからないけれど原爆はそもそも落とす必要がなかった中で、戦争終結の大義名分はあれど米ソ間の政治的駆け引き(抑止力・悪く言えば力自慢)のために20万人以上の民間人が犠牲になった。この描写があることで一層やるせない気持ちになる。日本的にも植民地にされる恐怖があったから簡単に降伏できなかったのは理解できる。起きてしまったことはしょうがないと言えばそれまでだがこれを見てアメリカ人はどう思うんだろう?当のクリストファー・ノーランはオッペンハイマーのポジティブな側面に焦点を当てたかった、的なことを語っている。たしかにこの作品によって原爆の父・オッペンハイマーがマッドサイエンティストだと言う世間一般的なイメージは変わったかもしれない。ただどうしてもアメリカ人によるアメリカ人のための映画だな、と思う部分があった。
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