「原爆の父」と呼ばれたオッペンハイマーの半生を追う。
ギリシャ神話において、ゼウスの火を人類に与えたことで罰せられたプロメテウスになぞらえて、オッペンハイマーが原爆を開発したことによる称賛から批難、晩年の世評が描かれる。
科学者は現象から生まれる影響も危惧しながら研究を進める。しかし、社会は実現化しなければ影響を想像することができない。
開発された装置は軍部によって武器になる。
本作で強烈な印象を残したのは、原爆実験「トリニティ計画」の危うさだ。爆発による大気引火で地球が滅亡する可能性がゼロでないにも関わらず爆破実験は決行された。大気引火こそなかったものの、その後の軍拡により人類がみずからを滅亡させる力を持ってしまったことは悲劇だろう。
オッペンハイマーは晩年になって表彰されることになるが、それは彼に対する再評価ではなく、引き返しのできないところまで歩を進めてしまった世界のための卑怯な正当化だったのだろう。