MasaichiYaguchi

浮かぶのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

浮かぶ(2020年製作の映画)
3.7
吉田奈津美監督による長編作品は、自分の思いを口に出せずにもがく、不器用な年頃の主人公たちの複雑な心境を、少ないセリフと甘美な映像で描き出していく。
かつて大きな森に囲まれていた町には、古くから天狗による神隠しの伝説があった。
結衣は、最後に残った林の伐採が決まったことを切っ掛けに、11年前、かつて神聖な森だったその林で、年子の妹・佳世が神隠しにあっていたことを思い出す。
その時、自分も隣にいたのに、何故妹が選ばれたのか。
そんな思いにとらわれた結衣は、風に揺れる木々に誘われるように、伐採前の林へと足を踏み入れていく。
選ばれた妹と、選ばれなかった姉の物語は、現代日本の地方都市に生きる10代女性を映しながら、天狗といった目には見えない神話上の存在を通し、登場人物、夫々の心の奥を垣間見させていく。
そして、本作でもう一つのモチーフである、カメラという対象を見て写し出すということ、そこにある「見られること」ということについても、台詞は少ないが、登場人物たちの行為から浮き彫りにされていく。