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イニシェリン島の精霊のmomongaのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.6

この映画は凄いと思います。殆どメイン2人しか登場しない本作ですが、恐らく目の肥えた映画ファンや勿論、評論家さんであってしても着眼点や感想が変わる作品だと思います。

しかし、それであっても普遍的な映画なんです。上手く言葉にできないですが、誰一人として他人事の人間はいないと断言できます。

この島は明らかに、急速に過疎化が進行している行き詰まりの島だと思います。しかも島民は小さなコミュニティの小さな出来事をニュースにし、ドメスティックな娯楽として暇つぶしの為に消費しています。

また、良い人である事は間違いなく大事ですが、一方的なコミュニケーションが孕む暴力性も感じさせます。

これは、田舎出身の私からしてめちゃくちゃ分かります。近所のおっちゃんが話してくる、興味のない昔話や世間話やプライバシーを踏み越えてくるデリカシーのない質問等々。

嫌いじゃ無いんですけど、めちゃくちゃしんどい。早よ帰ってくれ。と願う事の連続です笑

極め付けは価値観の押し付け。これは厳格なカトリック信者程ではなくとも、あるあるですね。

しかし、コミュニケーションを軽視し、他人に不干渉、世界への興味を失った悲劇ともとれるバランス。

この作品が持つ、彩色を読み取れる表現は仮面であったり、洗濯物の干されてる服の色であったりと、メタファーとしてしっかり刻まれており、凄まじい表現力だと思います。

ラスト近辺の「道々、考えていけば良いわ」の更にその先とも言える、「終わらせられない事もある。でも、それは悪い事ではない。」
このセリフは人類史の歩んできた、道のりを壮大にまとめ上げ、俯瞰で映る多くの土地区画の跡が残る島を観て「こうやって日本、あるいは人類は滅んで行くんだよ」

と冷徹でありながら、暖かい人類に対して肯定するラストだったと思います。

日本もイニシェリン島みたいな事になるのは近いと思います。

大傑作でした。
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