ヘイミッチ

イニシェリン島の精霊のヘイミッチのレビュー・感想・評価

イニシェリン島の精霊(2022年製作の映画)
4.4
芸術や学問などの高尚とされるものに向き合った時に感じてしまう俗物への嫌悪感ってあるよな。今迄なんてくだらない物に時間を費やしていたんだろうという、気付きであり成長であり、ともすれば選民思想的な驕り。

その境地に熟年になって今更辿り着いてしまったコルムが、俗人代表の様なパードリックと絶縁するのはなんら驚く事でもなく、問題は両極端過ぎることと、そんな関係性を育むイニシェリン島の性質だろう。
景色は広大だが恐ろしく閉ざされたコミュニティの毒性。島唯一の賢人である妹さんの苦い心情をお察しします。

雅人なコルムは風流は解れど極端な思想で人を蔑ろにし、俗人のパードリックは心底つまらない人間だが純粋な優しさがある。
あったのに、この絶縁を機に唯一の取り柄が失われ、そして惨劇は起きる。

意外や意外、本作は優しさにフィーチャーした映画でもあった。優しさで名を残す人間は居ないが、優しさで救われた人間は芸術よりも、もっと多いかもしれない。それを我々は忘れていやしないか。

be kind. エブエブでもそうだった

しかし皮肉なことに、ラストのパードリックには初めて人生の目標ができたような輝きとパワーを感じたよ。
バリーコーガンが本当に素晴らしい。

イニシェリン島には、確かに恐ろしい精霊がいた。