SANKOU

BLUE GIANTのSANKOUのネタバレレビュー・内容・結末

BLUE GIANT(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

原作も未読だし、ジャズの知識もまったくない。
それでも感情が揺さぶられたのは、これが本気で人生を賭けた者たちの物語だからだろう。
どれくらいの人が夢を追って東京にやって来るのだろう。
そしてその中のどれくらいの人が夢を叶えられるのだろう。
宮本大は世界一のジャズプレイヤーになるという壮大な夢を持って上京する。
最初に大が新宿に降り立った時に、ホームレスの人たちが路上で寝ている場面が印象的だった。
彼らもかつては何らかの夢を持って、東京にやって来た人間の一人かもしれない。
夢は持つことよりも、それを持続させることの方が遥かに難しい。
努力を続けられることはひとつの才能だ。
そして物怖じせずに自分の力を信じて世界に飛び込んでいけるのもひとつの才能だ。
日本最高峰のジャズクラブ「So Blue」の支配人が、「一流の一歩手前にいる人々に対して、我々は果たして公平に機会を与えられているのだろうか」と話した言葉が印象的だった。
ほんの一握りの一流の人間でも、芽が出るかどうかは運に作用される。
しかし、それでも本気で夢に向かって突き進む人間には必ずチャンスの扉は現れる。
そして一流の人間は一流の人間を引き寄せる。
才能の塊である大とピアニストの雪祈が組むことになるのは必然だったのだろうが、この物語の面白いところは、そこにドラマーとしては素人の玉田が加わることだろう。
彼は二人に追い付くために必死で努力をする。彼に感情移入する観客も多いはずだ。
大も雪祈も本物を見極める力がある。
そしてとてつもなくストイックだ。
正直、自分はここまで人生を賭けられる人間にはなれないと思った。
そしてこれこそが一流の人間の一流たる所以なのだと思った。
もうひとつ感じたのは、足を止めないことの強さだ。
大はどんな困難が待ち受けていようと決して立ち止まることをしない。
それもひとつの才能なのかもしれない。
人生は残酷で、あと一歩で夢に届くというところで梯子を外されることもある。
それでも己を信じて突き進めるかどうか。
映像も素晴らしかったが、何よりも音に感激した。
ジャズを知らなくても演奏の場面は心が揺さぶられる。
最後にブルーといえば静寂さだとか哀しみを連想させられるが、それは赤よりも温度の高い熱い色でもある。
この映画を観て心がブルーに染まったのと、色々なジャズを聴いてみたいと思った。
この作品も明日のジャズを担う大切な役割を果たしているのかもしれない。
SANKOU

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