しん

やがて海へと届くのしんのレビュー・感想・評価

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
4.0
死者の気持ちを慮るという生者の傲慢さを乗り越えて、それでも死者を悼むことができるのかを問う傑作でした。日々私が、自分が思うような他者であることを他者に押し付けていることをこれでもかと自覚させられましたし、反省の契機になりました。東日本大震災という文脈を共有している私が見ても、その既視感を優に超えてきた作品です。

本作の白眉の一つ目は、岸井ゆきのの圧倒的な演技です。浜辺美波とのダブル主演という設定でしたが、ほぼ彼女の映画です。むしろ浜辺美波を脇役ととらえることで、浜辺美波である意味も出ると思います。岸井ゆきのの表情、声、語り、態度の全てが、静かな中に意思を持っている主人公を完璧に表現していました。

次に圧倒的な情景です。美しい海が荒れ狂うとき、それは恐怖でしかないという当たり前のことをこれでもかと気づかせてくれます。立教大学附属新座高校の有名な祝辞(2011)「海を見る自由」を彷彿とさせる、素晴らしい情景描写でした。とりわけ全く異なる海を撮り分ける手法は、舌を巻くしかありません。

またビデオカメラの意味が作中で転換するのも素晴らしかったです。「ビデオカメラ」の前だからこそ話せないことがある一方で、前だからこそ話せることもあるのです。メディア論を考えている私にとって、この映画の持つメディア論的メッセージもしっかりと受け止めました。

他にも書きたいことはたくさんありますが、皆さんに見ていただきたいのでこのへんで終わりましょう。素晴らしい映画をありがとうございました。
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