金魚鉢

やがて海へと届くの金魚鉢のレビュー・感想・評価

やがて海へと届く(2022年製作の映画)
3.8
その壮大で幻想的な世界観から実写化困難とされていた彩瀬まるの同名小説を、中川龍太郎監督が一部アニメーションで表現することで映画化。メインキャスト二人の少し陰があって涼しげな空気感が監督の作風との相性間違いないと以前から期待を寄せていた作品。人付き合いが苦手で自分を表現するのが苦手な真奈役を演じた岸井ゆきのさん、儚さがあって本音が見えずどこか距離を感じるすみれ役の浜辺美波さん、どちらもイメージに合ったぴったりなハマり役。あの的確な昼下がりの物憂げな雰囲気と独特な余韻は中川監督作品でしか味わえないと毎度痛感させられる。

帰ってこない行方不明の親友との想い出回想から思いもよらぬ方向へと舵を切っていく本作でしたが、監督の色とマッチしていて凄く見応えがありました。中川監督作品の好きなところは、傷心の主人公の再起を描く中で、飛躍したきっかけを与える訳ではなく物語の運命的な作用が抑えられているところ。静かな時間と共にゆっくり向き合いやがて自分を肯定してくれているかのような世界の温かさに気づいていくという立ち直るまでの過程が限りなく現実に近い肌感なので感情移入しやすいように感じます。今回もロケーションの魅力を最大限引き出したような画で生きている世界の美しさを再認識させてもらいました。また新たな切り口として被災地の人の想いがリンクしてドキュメンタリーのような繋がりになっているのも面白い趣向だと思いました。

真奈目線ですみれとの出会いから別れまでの全貌が見えてきたところで、終盤すみれ主観に切り替わると明かされなかった彼女の秘密が。結局自身が言っていた素の自分を引き出すことなくチューニングを合わせながら一生を遂げたと思うとあまりに悲しすぎる。生まれ変わって新たな命となる希望、それさえ知らずまだどこかで帰りを信じて待つ人といった皮肉なすれ違いと津波が齎す凄惨さ、人の生から死、死から生が伝わってくる組体操のように壮大なラストがWIT STUDIO制作のアニメーションで上手く表現されていて感慨深かった。
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