真一

燃えあがる女性記者たちの真一のレビュー・感想・評価

燃えあがる女性記者たち(2021年製作の映画)
4.2
 舞台は、悲惨なカースト制度が色濃く残るインド北部。文字通り「非人」扱いされている最下層のダリト(不可触民)出身者が、ニュース・メディアを立ち上げた。記者は、すべて女性。誰も咎めたことがない日常茶飯事のレイプを勇気を持って報じ始めたのだ。だが、そんな彼女たちの前に、あまりに巨大な壁が立ちはだかるー。

 本作品は、インドの名もなき女性たちが見よう見まねで記者活動を始めた前代未聞の「報道騒動」を取り上げた、貴重なドキュメンタリー作品です。権力、大手メディア、男たちの蔑みや嫌がらせを受けながらも、愚直に取材を続ける「カバル・ラハリヤ」(ニュースの波)の記者たち。無意識のうちににじみ出る真のジャーナリズム精神が、観る人の心を揺さぶります。

 印象に残ったのは、大手メディアの記者と思われる男性が、業界ルールに慣れない「カバル・ラハリヤ」の彼女たちに説教するシーン。警察署での記者会見の後、上から目線でこう「アドバイス」する(大体の趣旨。正確ではありません)。

 「冒頭からあんな尖った質問をしちゃダメだろう。当局者に取材する時は、最初は誉めるんだ。良い雰囲気をつくらないと、話が聞けなくなるぞ」

 ベテラン男性記者の話を黙って聞く若い女性記者たち。「最下層女性へのレイプなどというマイナーな問題を取り上げてどうするんだ」という意識が透けて見えた。日本で言えば、セクハラ問題を官房長官会見で取り上げた女性記者に対し、官邸詰めの男性記者たちが白い目を向けるといった感じだろうか。

 日本メディアが持ち上げるインドのモディ政権を、宗教右派と結び付いた国家主義勢力として描いているのも、印象的だった。世界最大の民主主義国家をアピールする裏で台頭する排他主義と封建主義。しかも彼らは、大手メディアやインターネット世論を巧みに味方に引き入れながら、支持を増やしている。こうした民主化に逆行する流れに逆らえず、辞める記者も出てくる。何ともリアルだ。

 それでも「カバル・ラハリヤ」は、着実にアクセス数を伸ばしているという。ジャーナリズムへの希望を感じさせる話だ。翻って我が国のメディアはどうだろうか。暗澹たる思いに駆られます。
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