ハリ

カッコーの巣の上でのハリのネタバレレビュー・内容・結末

カッコーの巣の上で(1975年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

刑務所での強制労働を逃れる為に狂人を装い精神科病院に入り込む。そこで経験する抑圧された生活とそれに順応する患者達に疑問を覚え、やがて反抗心が芽生えてくる。

閉鎖された空間で秩序を乱さないように生活を送る。自由は無いが不自由も無い。一定の娯楽と定例化した行事が当たり前になり、外の世界では住みにくい人達も院内での普遍的な生活が自分の中の全ての世界のように見えていたのだろうか。

マクマーフィは元来普通の人間。そういった環境に耐えられなくなり、他の者も抑圧されている事実に気付き出し病院側と対立感情も生まれ一触即発になる。

主体性を取り戻してきた患者達は閉鎖的で抑圧された環境から一時は開放が頭に過るが、外の世界では生きられないと心の底では皆分かっているというのが脱走を企てたマクマーフィに返答をしたチーフのセリフから汲み取れた。

船で釣りをすることで外の世界を見せるシーン、真っ暗な画面でワールドシリーズを頭の中で実況するシーン、皆でバスケを興じるシーン、乱痴気騒ぎを起こすシーンなど皆いきいきとした人間らしさを充分に持っていると確信めいた印象的なシーンがラストまで盛り込まれていた。

それだけにビリーの自殺、ロボトミーを受けさせられたマクマーフィ、尊厳を保つ為にマクマーフィを殺すことにしたチーフとラストに怒涛の衝撃シーンの連続が際立った。

ラストはチーフが尊厳を失ったマクマーフィを殺害した後、マクマーフィの意志を汲んで脱走する形で物語は終わる。

個人の主体性を重んじるマクマーフィと団体での秩序を重んじる看護師長。そこで揺れ動く患者達。

この作品に登場する人物に悪人は存在しておらず各々が自分の中での"秩序"に沿って生きていたのだなと。"秩序"を測る物差しの大きさや形がそれぞれ違っただけで。他の者が匙を投げたマクマーフィを本当に更生させる、外の世界では生きられない患者の精神疾患を治すと断言した看護師長がその証だと感じた。
個人的評価:名作
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