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ゴヤの名画と優しい泥棒のmoeriのレビュー・感想・評価

ゴヤの名画と優しい泥棒(2020年製作の映画)
4.0
イギリス流ユーモアと正しくあろうとすること。

ゴヤの名作「ウエリントン公爵」を、ロンドンナショナルギャラリーから誘拐したおじいちゃんの実話。

第二次世界対戦後、年金が頼りの高齢者は慎ましやかな生活をせざるを得ず、公共放送の受信料を払うほどの余裕はなかった。それに憤り、年金生活者には無料で視聴権利を与えるべきだと主張するバントンさん。
かなりのクセ強めおじいちゃんだけれど、自分のことよりも人のことを思っていて、それが立場の弱い人を助けること、正しくあろうとする姿に表れていて、哲学的でユーモアに溢れた愛すべきキャラクターになっている。

でも、実はそうやって声をあげる人が居るから、理不尽や不平等なことが改善されたり、動かなくてもそこに問題があるんだって気づかせてくれるんじゃないだろうか。

ラストに向けての法廷シーンは、もっとイギリス文化や歴史に精通していれば、あの言葉たちの本当の面白さが分かるのかな。
何気ない言葉だけれど優しさに溢れていて、疲れた心に染み渡っていくようだった。

今の世の中、社会との繋がりはテレビの他にもたくさんあるけれど、うっかり孤独に落ちてしまいやすい。
あなたがいるから、わたしがいる。
存在意義というか、誰かを思いやることに理由なんかいらなくてそこにあなたがいるから、っていうシンプルな想いでいいんだなぁ。

ところでウエリントン公爵の騎馬像にイタズラする文化もスコットランドにはあるそうで、ちょっと誘拐されるくらいならウエリントン公爵は許してくれそう。
(実際は返却まで約4年かかっているので、ちょっとではないけど。)
そんな肖像画の中の人の愛され感もにじみ出る、良作でした。
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