いずぼぺ

ウーマン・トーキング 私たちの選択のいずぼぺのレビュー・感想・評価

4.0
赦すか、闘うか、去るか
さあ、話し合いましょう。

集落の女性への度重なる集団レイプ事件を受けて、集落の女性たちが自分たちの未来をかけて会議をはじめる。タイムリミットは2日後。
2009年ボリビアでおこった事件をベースに作られた脚本。濃密な会話劇で彼女たちの命懸けの言葉が重く重なり合う。
彼女たちは宗派の方針で教育を受けていない。文字も地図もしらない。
「教育を受けていない人たちにあんな会議ができるのか?」という指摘をいくつか拝見したが、私は違う考えをもつ。彼女たちは文字を奪われたせいで、語りによるコミニュケーションが発達したのではないかと考える。集落の作業を支える女性たちには情報を共有したり、合意形成をしたり、次世代への伝承も語りで行ってきたはず。効果的に意思を疎通をするスキームを持っていてもおかしくないと思う。文字を奪われたために聖書も暗誦するしかなかったであろう。心に取り込んだ言葉たちは彼女たちにとって天上の蔵の宝物であっただろう。
彼女たちの会議は共通言語の宗教的なロジックが時折顔をみせるが、議論が深まるにつれ暴行により踏み躙られた女性の権利への怒りから人間として生きる権利へと視点が拡大していく。復讐や安定、空虚な赦しよりも未知の世界への旅立ちにより母や妻、娘としての役割を超えて「私が何者なのか」を知ろうと出発する。その歩みは力強い。その眼差しはまだ見ぬ世界とまだ見ぬ本当の自分を見据えている。
有史以来、「男以外の性」としての女性として生きてきた女性が自らの選択により自らの道を歩みはじめたのだ。
これは特定の宗派のコミュニティでのカルトからの脱却の話ではない。世界中のあらゆる女性に語る寓話である。

素晴らしい俳優陣と脚本で集中して観ることができた。
95-75