内戦下の祖国・スリランカから、赤の他人の女と少女と家族を装い、命からがらフランスのやってきたディーパン。平穏な日々を掴みかけたそのとき、彼の鬱屈とした魂と、煮えたぎる怒りを、狂気とともに目覚めさせたも>>続きを読む
金に目が眩むのは個人だけではない。むしろ、救いようがないのは、組織はおろか、政府までもが臭いものに蓋をし、保身のため、目の前の重大な問題を先送りにしてしまうことだ。実体のない経済、つまりは、マネーゲー>>続きを読む
R15指定のストップモーションアニメ。奇想天外とはいかないまでも、一癖も二癖もある展開は、さすが(!)、その脳内を一度は覗いてみたい、変な映画を作り続けるチャーリー・カウフマンの作品だけはある。生きる>>続きを読む
手に入れた権力を手放さぬがために流される血や涙。独裁によって苦しめられている民衆が、世界には数多く存在するけれど、厄介なのは、革命で独裁者が倒されてなお、暴力による新たな独裁が生まれるということだ。監>>続きを読む
ジェームス・ディーンの魅力は、何といってもその「憂い」にある。愛されることへの渇望、スターであることの苦悩、いわば「理由なき反抗」は、一人の人間としての彼自身の謂いでもあった。「急いで生きないと。死に>>続きを読む
わが身に火の粉が降りかかる前に、怪しい奴は、女だろうが、仲間だろうが、容赦なくぶっ殺す。禿げ上がった頭に、黒の革ジャン、金のネックレス、まるで獲物を狙うような青く鋭い眼光。FBIを手玉に取り、イタリア>>続きを読む
ねじれて、ねじれて、ねじれまくる。収束に向かうどころか、どんどん加速していく黒川芽以の暴走に、ただただ身を委ねるべき恋愛コメディ。とんでもなく荒唐無稽に思えるけれど、次第にじわじわ、それで「世界は変わ>>続きを読む
マフィア映画において最も重要なのは緊張感だ。単調かつ地味に思えるけれど、抑揚を抑え、粛々と進むこの映画に、終始一貫して漂っているのは、息の詰まるような緊張感だ。イタリアマフィアの最大勢力ともいわれるン>>続きを読む
人間が窮地に立たされたときに必要なことは、冷静であること、問題を一つひとつ確実にクリアしていくこと、そして、何よりもユーモアを忘れないことであることをこの映画は教えてくれる。科学的検証に基づいたリアリ>>続きを読む
リアリティをもって戦争を描ける監督がどんどんいなくなる中、並々ならぬ思いを胸に撮りあげた、山田洋次監督、84歳、84本目の意欲作。ユーモアを交えながら、慎ましくも力強く生きた市井の人々を描いたファンタ>>続きを読む
「殺し合いの場」である以上、私たちの想像をはるかに超え、戦場は、過酷で、残虐で、そこに様々な欲望や狂気が渦巻いているはずだ。にもかかわらず、ときに映画は(意図するにせよ、しないにせよ)戦争を美しく描く>>続きを読む
日本の歌謡曲と民俗伝承をベースに、ホラー、コメディ、サスペンスにファンタジーと、あらゆるオタク要素が盛り込まれたハンガリー映画。なんのこっちゃわからない奇想天外なシーンの連続だけど、結局のところ、この>>続きを読む
困っているひとに手を差し伸べる。そんなささやかなやさしさが輝きを放つのは世界が殺伐としているからだ。少年と少女と兵士。それぞれがそのまま、イランとイラク、そして、アメリカという国の隠喩となっていること>>続きを読む
誰にもわかってもらえない孤独を、誰もが抱えながら生きている。生身の人間がその感情を爆発させるのは、それでも誰かにわかって欲しいと、魂が全力で叫ぶからだ。そんなひっこみのつかない気持ちを爆発させても大丈>>続きを読む
ヒロインを演じたエレーナ・アンの映画史に刻まれるであろう美しさ! その凛とした少女の眩さをフィルムに鮮烈に焼きつけただけで、紛れもなく傑作に値するけれど、この映画にはそれだけにとどまらない凄みがある。>>続きを読む
弱さとか、ずるさとか、優しさとか、やるせなさとか、人間の感情の機微が丹念に描かれている。西川美和監督の人間観察力、洞察力はハンパない。
「愛する人のために戦わねばならない」という言葉に騙されてはならない。「愛する人のために戦ってはならない」のだ。
常識とか、道徳とか、倫理とか、そういうものでは量れないものを、ときに映画は容赦なく私たちに突きつけてくる。21世紀の「表現の自由」がどんどん広がる痛快エンタテインメント。これは素晴らしい映画だ。ただ、>>続きを読む
私たちが想像もできない、過酷で、熾烈な現実。中央アメリカの小さな国ホンジュラスのことも、Marasがこれほど凶悪な犯罪組織であることも知らなかった。『Sin Nombre』(名もなき人)という原題も、>>続きを読む
「どうしようもないからあきらめる」と「どうしようもないけどがんばる」には雲泥の差があり、それを決めるのは自分自身でしかないのだ。
ファンタジーと呼ぶには、あまりに恐ろしいお話。「私を受け入れて」というエリの台詞は、映画史に残る、切なく美しい台詞。公開当時、映倫による修正について騒動となったようだけど、やはり、無修正で上映すべきで>>続きを読む
アンベール・バルザンに捧げられた、良質な、良質な、フランス映画。映画を愛する私たちに唯一できることは、映画を観続けること。そして、それに携わった作り手のメッセージを、わずかでもしっかりと受け取って、そ>>続きを読む
良かった。ほんとうに良かった。とてつもなく滑稽で、恐ろしく、やるせない。それでいて、温かく、希望に満ち満ちている、しみじみと優しい映画だ。
過酷で、壮絶で、言葉にならない。「プロパガンダ」と不快感を示す人もいるようだけど、映画というものが何かしら意思の発露として作られるものである以上、「すべての映画がプロパガンダである」というのは言い過ぎ>>続きを読む
ロックがまだ若者の魂を解放していた頃の架空のバンドを描いた疑似ドキュメンタリー。音楽も、映画も、どう伝えるかというテクニックではなく、何を伝えるのかというメッセージの方が、決定的に重要だ。バンド経験が>>続きを読む
日本語には「おもんぱかる」という美しい言葉があり、日本人にはかつて、口にせずとも互いの気持ちをわかりあえる美徳があった。そんなことをじわじわ感じさせてくれる映画だ。
孤独を埋めることが、簡単にできる人と、一筋縄ではいかない人がいて、やさしすぎたり、繊細すぎたりすると、それはとてつもなく難しいことになる。原題は「Somersault」(「でんぐり返し」「宙返り」とい>>続きを読む
Wikipediaによると、バーレスクとは「第一義的にシェイクスピア等先行する文芸作品をパロディ化した茶番」であり「ダイレクトな性表現ではなく“焦らす”という行為が最も重要視される成熟した大人のエンタ>>続きを読む
プラトンは「真理は子供の口からでる」という言葉を残している。ときに子供は、唐突に真理を見抜き、大人たちを狼狽させ、社会に突きつけることがある。この映画を、ただの園児たちの戯れではなく、何かしら中国とい>>続きを読む
「生き残ることが戦場において真の栄光である」と語ったサミュエル・フラー監督の戦争映画の傑作。彼がゴダールの「気狂いピエロ」で語った「映画とは、戦場のようなものだ。愛、憎しみ、アクション、 暴力、そして>>続きを読む
還暦を過ぎてなおファッション界に君臨する女王。アナ・ウィンターがアナ・ウィンターであるために、自らに課していることがいかに多いか。彼女が一瞬たりとも「感情」や「私情」に拘泥するシーンはなかった。世界一>>続きを読む
いじめ、恐喝、万引き、援助交際、レイプ、殺人、自殺。弱いものがさらに弱いものを叩く。その負の連鎖を止めるのは「何ものにも依存しない強さ」だけだ。
「本当のところ、人生は厳しいことばかりだよ。だから他人を傷つけないかぎり、うまくいくならなんでもありでいいと思うんだ」と監督。40年以上に亘って、40作以上の映画をコツコツと撮り続ける、ウディ・アレン>>続きを読む
自分にとって当たり前のことが、人にとっては当たり前でない。個には違いがあり、そのことを認め、赦し合うことができなければ、ともに生きていくことは難しい。「愛は寛容にして慈愛であり」という聖書の言葉の域に>>続きを読む
薬師丸ひろ子というのは本当にすばらしい女優だ。セーラー服で機関銃をぶっ放し、「か・い・か・ん」といったあの台詞が、アドリブであったと知ったのはつい最近のこと。当時17歳。恐るべき感性。こちらも傑出した>>続きを読む
恨みとか、妬みとか、憎しみとか、そういったものを、傷口に塩を塗り込むように抉っていく凄まじさが、本谷有希子の作品にはある。それをユーモアで包み込み(もちろんブラック)、最後の最後、ほんのわずかに希望を>>続きを読む