このレビューはネタバレを含みます
「造反有理」のスローガンのもと、紅衛兵による大量の殺戮が行われ、数百万から数千万の犠牲者を出したといわれる文化大革命。それから35年経った今なお、公に毛沢東の尊厳を冒すような行為は一切許されず、言論の>>続きを読む
人間は弱い。とりわけ、男なんてのはみんなヘタレ。生きることに意味を求めるのは、実はとっても傲慢なことで、辛くても、苦しくても、なんとか逃げずに最後の最後まで、もがきながらも生き抜けば、そのひとが生きた>>続きを読む
学生時代、芸術を学びながらまず感じたことは「絶対に芸術家にはなれない」ということだった。基本的には今でも「狂人にしか芸術は創れない」と思っている。同じく、演技を賞賛する言葉に「憑依したような」という表>>続きを読む
マフィア同士の権力闘争、裏切り、友情、プライド。必然と偶然が錯綜する緊張感みなぎる115分。映像だけで観客をゾクゾクさせることができる、コーエン兄弟はその一握りの天才だ。「彼らのマネをする者も出てくる>>続きを読む
権力を自覚する者は公に感情を露わにしてはならない。この「英国王のスピーチ」はもちろん、「エリザベス」にしろ、「クィーン」にしろ、英国王室を描いた映画の君主には、品位を重んずる徹底した自己犠牲や自己抑制>>続きを読む
かんたんに殺し合いをはじめ、あっけなく人間が死んでいく西部開拓時代。死というものが近く日常的でありながら、男たちの美学によって、耽美的なものに高められていく。アメリカ映画の魂ともいえる「西部劇」をコー>>続きを読む
従順であることと盲目的であることはまったく異なる。解釈もそれぞれ、受け止め方もときどきで構わない。宗教はそれ自体が目的ではなく人間が生きるためのよすがに過ぎないことをこの映画は教えてくれる。「何かを学>>続きを読む
司法は完璧であるという幻想。そもそも「情状酌量」なんてことが許される曖昧なルール。でも、私たちは、その曖昧なルールの中で生きていくほかない。それが例え滑稽なことであったとしても。「ここを笑ったら危険だ>>続きを読む
映画だからといって奇想天外なストーリーが展開されるとは限らない。映しだされる映像に、登場人物の呼吸に、頭をからっぽにして、ただただ身を委ねるだけで、その世界にすーっと同化できる作品がある。「変わること>>続きを読む
父親にとって娘はかけがえのない存在であり、娘にとっても父親はかけがえのない存在である。そんな誰もが知っている当たり前をこんなにも瑞々しくきらきらと描いた映画はない。自身も偉大な父親を持つソフィア・コッ>>続きを読む
信仰のために命を捧げる殉教という行為が、本当に正しいことなのかどうかわからないけれど、どのように生きるのかと同様、どのように死ぬのかを自らで決める人間の尊厳はやはり守られるべきものだ。修道士たちがすべ>>続きを読む
個人個人で考えれば簡単な善悪の分別も、集団に属すると曖昧になってくる。なぜなら、そこに利権が生まれ、群れることで堕落した人間は、独りになることを恐れ、理屈をこねて自分たちを正当化するからだ。「偽善」と>>続きを読む
淡淡と描かれるわずか75分のいたってシンプルな物語。腐らず、驕らず、謙虚に、お互いを思いやることができれば、世界はもっと美しいものになる。そんなことを沁み沁みと感じさせてくれる映画だった。深い絶望の中>>続きを読む
エディ・タウンゼントは「ボクシングは冷たいスポーツよ」という言葉を残している。この6名もの世界チャンピオンを育て上げた名トレーナーは「負けた選手には最後まで寄り添い、勝てばすぐに引き揚げた」という。命>>続きを読む
どんなに純粋な愛情も度が過ぎれば歪んでしまう。ごく平凡な家族が普通のしあわせを手に入れることさえ儘ならないのが人生であり、それでもなお、人は生きていかねばならないことが痛切に描き出される。DVDパッケ>>続きを読む
ある雑誌のインタビューで「運命が正しい方向に彼らを導く。運命とは常にそういうものである」とイーストウッドは答えている。世界中の人々が彼の映画を心待ちにするのは、どんな物語であれ、誰よりも力強く人生を肯>>続きを読む
トラウマに縛られたり、絶望に打ちのめされたり、何もかも上手くいかなかったり。そこから一歩前に進むためには、過酷な現実も、弱い自分も、すべてをありのままに受け入れることが不可欠なんだ。アナーキーなメタル>>続きを読む
こだわりを捨て、シンプルに、まっすぐに。子供の頃のままの視点で今の自分を取り巻く世界を眺めると一体どんな風に見えるのだろう。そうすればきっと、どんな奇跡も、どんな未来も、信じることができるのに。これは>>続きを読む
戦争は、人間をたやすく破壊し、狂わせ、どんなに残酷で非人道的な行為も、すべて当たり前にしてしまう。人類の歴史が戦争の歴史であるとするならば、即ち、それは残酷の歴史でもある。国土の8割を森と湖が占める美>>続きを読む
解説によると「生と死を優しく深く洞察したファンタジー」ということらしいが、久しぶりに、難解で、退屈で、形容しようのないフィルムに出会った。ゴダール然り、フェリーニ然り、かつて「難解でなくなったフィルム>>続きを読む
母国で上映されないばかりか、国外逃亡を続けながら、それでもなお映画を撮ろうとする人たちが、世界中に少なからず存在する。そんな境遇にあるバフマン・ゴバディ監督が撮り上げたのは、国家によってズタズタに傷つ>>続きを読む
例えば、情熱のようなものを映画にするのは難しい。抑え過ぎると物足りず、やり過ぎるとシラけてしまう。また、誰もが知っている、誰もが好きなものを映画にするのも難しい。どんな風に描いても、批判を免れることは>>続きを読む
傍若無人な元・コンビニ強盗の常習犯が繰り広げるスラップスティック・コメディ! スピーディーに展開する荒唐無稽なストーリー、B級アクション映画への限りないオマージュ、ついでに、髪の毛がやたらフサフサして>>続きを読む
マッツ・ミケルセンはやはり只者ではない。理不尽に殺された男が銃とナイフを手に悪党に立ち向かう。これぞ西部劇の正統。極限まで削ぎ落とされたソリッドなプロットと映像にシビれること必至。そして、政治や宗教の>>続きを読む
「書くことで何かが変わる」と信じていた伝説のジャーナリストが自らの命を絶った。そこに、誰もが情報発信できる時代の、ジャーナリズムの衰退と限界を重ねるのは安直に過ぎるだろうか。いずれにせよ、ハンター・S>>続きを読む
突然のリストラ、立ち退きの強要、妻の裏切り、連れ子への虐待、父親との確執。誰もが躓きながら、失いながら、日常を生きている。これは日本のいたる街で起りうる市井の物語だ。「人生の喜びと悲しみを丸ごとフィル>>続きを読む
まったく関係のない日常を生きていたはずなのに、いつの間にか巻き込まれ、殺し合いを始めてしまう。そして、その戦いはやがて「愛する人のために」とか「宗教のために」といった、都合のいい言葉によって正当化され>>続きを読む
失うことで初めてわかることがたくさんある。かけがえのないひとを亡くしたとしても、そのひとをめぐる記憶や関係がすべて消えるわけではなく、そのひとの意志は、それぞれにいろいろなかたちで受け継がれていく。そ>>続きを読む
地球を自分たちのものだと思っているのは人間だけだ。そんな身勝手な視点から離れて地球を眺めると、いろんなものが愛おしくなってくる。利己的な視点では見えないものがきっと大切なことなんだ。一切セリフのない映>>続きを読む
変わらないものはない。そして、どちらかが正しくて、どちらかが間違っているということもない。どうしようもなくやるせない、男女の倦怠の核心に迫った残酷で美しい恋愛映画。メランコリックという言葉を映像化する>>続きを読む
私が最も感動したのは、足の不自由なメンバーが、リズムにあわせて大地を踏みしめ、上半身をくねらせ、全身でスウィングするシーンだ。貧困な国に暮らす障害者である彼らにとって、音楽は、悲しみであり、喜びであり>>続きを読む
たとえ家族であったとしても、犯した罪を帳消しにすることはできないし、誰かを傷つけた過去を消し去ることもできない。私たちにできるのはその過ちから決して逃げないということだけだ。許される、許されないという>>続きを読む
人間は誰もがみんな孤独で哀しい存在だ。だからこそ、他愛のない話にも夢中になり、一喜一憂し、人とつながっていることをやめれない。そして、人間は、底抜けにおかしくて、限りなく優しい存在でもある。美しい空と>>続きを読む
バルテュスとフェルメール。二人の画家を尊敬しているというカプランオール監督の映像美に圧倒されっぱなしの102分。少年とも青年ともいえないユスフの、何かに押し潰されそうな危うい世界を、詩情溢れる豊かな映>>続きを読む
「ファッションは女性を美しく見せるだけではなく、女性の不安を取り除き、自信と自分を主張する強さを与えるものである」と信じてきたというイヴ・サンローラン。晩年、お金とマーケティングの話ばかりのファッショ>>続きを読む
女優は賢くなければいけない。この賢さというのは、頭がいいということでなく、潔く、謙虚で、生きることに迷いがないということだ。ICUで生死をさまよい「当たり前に生きているけど、それがとても恵まれているこ>>続きを読む