近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 2ページ目

近本光司

近本光司

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PERFECT DAYS(2023年製作の映画)

2.5

スカイツリーの麓にある木造二階建ての年季の入ったアパートに居を構え、渋谷区のトイレ掃除の仕事にひたむきに取り組み、ルー・リードやパティ・スミスをカセットで聞き、フォークナーや幸田文を読み、草木を愛でな>>続きを読む

逃げきれた夢(2023年製作の映画)

4.5

たった一度きりの人生が、いつのまにか自分の手許から過ぎ去ってしまっていた。もう取り返しがつかないところまで来てしまった。直視するにはあまりにおそろしい事実にはたと気づいてもがく還暦間近の男の悲哀。孤独>>続きを読む

銀河鉄道の父(2023年製作の映画)

3.5

満席にほど近い客席のあちこちから啜り泣く声が聞こえてくる。わたしもあの劇場の魔力に絆されたというところは否めないけれど、いい映画だと思う。ふつうの伝記とちがって宮沢賢治の父の視点で描かれる家族の物語自>>続きを読む

小早川家の秋(1961年製作の映画)

4.0

中村鴈治郎の顔が正視に耐え難いという点をのぞけば、いい映画だと思うのだが…。

早春(1956年製作の映画)

3.5

再見(ツァイチェン)。ぞくっと悪寒が走るような、印象に残る不気味なショットが三つ。ひとつ、料亭の個室で岸惠子と池部良の禁じられた接吻の直後に挿入される首を振る扇風機。ふたつ、死期が間近に迫る増田順二の>>続きを読む

宗方姉妹(1950年製作の映画)

4.0

小津の生誕120年/没後60年の日に再見。田中絹代と高峰秀子が共演を果たしたのはいつ振りだろうと思っていたら、公開当時のパンフレットに五所平之助『新道』以来14年振りのことだと書かれていた。二人は15>>続きを読む

この世界の片隅に(2016年製作の映画)

3.5

呉のまちに連日連夜爆弾が降りしきる描写に、八十年後のガザの現在が重なる。あの戦争のころ、ユダヤの民はむしろ殺戮される側にいたわけだ。七年振りくらいに再見したのだが、すぐれた映画はこうしていつの時代もア>>続きを読む

ゴジラ-1.0(2023年製作の映画)

4.0

戦地で死の恐怖を目前にして与えられた任務を果たせなかったこと。そのせいで多くの同胞たちが命を落としてしまったこと。わたしたちの目からすれば、その責任は当然敷島ひとりに帰せられるものではないにもかかわら>>続きを読む

君たちはどう生きるか(2023年製作の映画)

5.0

わらわらが熟して、丸く膨らんで一斉に空へと浮かび上がっていく。眞人はキリコに訊く。いったい彼らはどこにいくんだ? これから生まれるのよ。あなたが来た世界で。このキリコの科白を聞いた途端、わたしの涙腺は>>続きを読む

Fremont(原題)(2023年製作の映画)

4.5

隣人は言う。ここじゃ星は空を見上げるたびにちがうとこにいやがる。カブールではいつもおんなじ場所に留まってたはずだよなあ。こんなに星々が動きまわる土地で、どうやって安心して暮らせるってんだよ、あんたもそ>>続きを読む

Omen(英題)(2023年製作の映画)

3.0

コンゴ民主共和国に出自をもつラッパーであるBalojiがはじめてメガホンを取った長編映画。主演のマルク・ジンガは、かつて2019年のフェスパコでエタロン・ドールを獲った『密林の慈悲』でも主演を張ってい>>続きを読む

せかいのおきく(2023年製作の映画)

3.0

なあ、せかいって言葉、知ってるか。この空の果て、どこだかわかるか? 果てなんかねえんだよ、それが世界だ。なあ、惚れた女ができたら言ってやんな。おれは世界でいちばんお前が好きだって、これ以上の言い回しは>>続きを読む

Winny(2023年製作の映画)

4.0

字幕なしの母国語で、これだけ活きのいい現代の法廷ものを目撃できることを慶賀しなければならない。やはり法廷ものは字幕を読み進めていくだけでは十分でないのだ。じっさいの裁判同様、法廷で戦わされる言論のパフ>>続きを読む

ほつれる(2023年製作の映画)

4.0

巧い、とても巧い、とおもわず舌を巻く。わたしはこの映画に成瀬を感じたが、監督は一本も観たことがないと言っていた。演劇出身の監督だということがよく頷ける行き届いた脚本と演出の機微に役者たちはよく応え、ス>>続きを読む

茶飲友達(2022年製作の映画)

3.0

あまり好みではないが、うわさに違わぬ力作であることは素直に認めなければならないと思いながら、最後の渡辺哲のさみしげな後ろ姿を捉えたショットを観ていた。高齢者専用の売春倶楽部という設定の着想があったとし>>続きを読む

夜明けまでバス停で(2022年製作の映画)

1.5

あのときわたしは事件のあった幡ヶ谷のバス停のほど近くに住んでいたこともあって、あの顛末には大きく心を揺さぶられた。未曾有の感染症の拡大で、社会の網目から零れ落ちてしまった人びとを主題に物語を立ち上げた>>続きを読む

バカ塗りの娘(2023年製作の映画)

3.0

津軽のしがない片田舎で脈々と継承されてきた馬鹿塗りとよばれる漆の伝統。その仕事に携わる職人の継承を主題にした小品だが、その身の丈以上のことは欲張ろうとしていない、ぎらぎらした野心のないことに好感をもっ>>続きを読む

鬼婆(1964年製作の映画)

4.0

肉欲に駆られた若い女が、日が落ちたあとの背丈ほどの高さがある茂みを駆けてゆく。あの表情。あの足取り。未成熟な若さを凝縮したような姿に、うつくしき照明が当てられた様子に、わたしは魅了されっぱなし。吉村実>>続きを読む

薮の中の黒猫(1968年製作の映画)

3.0

林光でなく武満徹が音楽をやっていたら、二代目中村吉左衛門でなく加山雄三が主演を張っていたら、甲斐庄楠音や伊藤熹朔が美術を担当していたら、乙羽信子でなく田中絹代が母を演じていたら、新藤兼人でなく溝口健二>>続きを読む

雁の寺(1962年製作の映画)

4.0

聖職者の頽落という主題においてブニュエルにもっとも接近する川島雄三の意欲作。白黒の引き締まった画面を切れ味よく刻んでゆく撮影と編集のモダニズム。『女は二度生まれる』『しとやかな獣』とあわせた大映の三作>>続きを読む

The Animal Kingdom(英題)(2023年製作の映画)

2.5

寸分足りとも動かない交通渋滞のファースト・シーンに、フェリーニの『8 1/2』を重ね合わせたのはわたしだけではないだろう。突然変異で翼の生えた男の、移送車から脱走。その一部始終を見ていた隣の運転手は「>>続きを読む

落下の解剖学(2023年製作の映画)

4.0

女性作家が夫を殺害する話のほうが、ただ男が絶望して自殺する話よりもよほど面白いでしょうと、転落死の真相をめぐる裁判を特集したテレビ番組で破廉恥なコメンテーターが言ってのける。顛落の解剖学。エンドロール>>続きを読む

国境ナイトクルージング(2023年製作の映画)

2.0

このなかに孤独を感じて鬱々としている人がいたとしたら、きみはひとりではないと伝えたいと、アンソニー・チェンは上映前の舞台挨拶で語った。いましがた映画を見終わったわたしは、この映画のいったいどこに孤独が>>続きを読む

チャップリンの寄席見物(1915年製作の映画)

4.5

かつてルノーの自動車工場があった場所で、子ども向けの生演奏付き上映。あの家族連れでごった返す劇場にひとりで観にきていたのは自分ひとりだったのではないか。劇中のチャプリンをはじめとする観客たちが繰り広げ>>続きを読む

魔人ドラキュラ(1931年製作の映画)

-

フィリップ・グラスが1998年に作曲した伴奏の生演奏付き上映。てっきりサイレント映画なのかと思っていたら、フィルムの音声にピアノの演奏が重ねられていて驚いた。そういうこともできるのか。
 絶妙に出自を
>>続きを読む

Yannick(原題)(2023年製作の映画)

4.0

げらげら笑っているうちに、あっという間に映画は終わりを迎えている。爽快な潔さ。『Chien de la casse』で強い印象を受けていたラファエル・クナールの佇まいに完全にやられる。彼はパトリック・>>続きを読む

めくらやなぎと眠る女(2022年製作の映画)

4.0

わたしたちは村上春樹の最良の部分に沈み込んでいく。あのイマジネーションの飛ばしかたこそが村上春樹のあたらしさだったのだと確認できる。とても上質な大人のためのアニメーション。もう観てから十ヶ月も経ってし>>続きを読む

枯れ葉(2023年製作の映画)

3.0

業務用スーパーの品出し。工事のあいまに喫む煙草。通勤バスの座席配置。ラジオが伝えるウクライナ戦争の戦況。カラオケバーで出会った男女が埋めあう孤独。二人で連れ立って観に行く映画はジャームッシュのゾンビ映>>続きを読む

The Goldman Case/ゴールドマン裁判(2023年製作の映画)

4.0

抜群におもしろい。劇場にいた観客たちがわたしと同じようにだんだんと「のめり込んでいく」感じが手に取るように伝わった。1970年のピエール・ゴールドマン事件をめぐる裁判の再現を試みた法廷もの。二時間近く>>続きを読む

悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.0

真冬の森の木立を真下から仰ぎ見る移動ショット。あの映像を見ているのはだれか、という問いのもとにこの物語がつくられたのではという気がする。そのじつ、あの映像は冒頭と結末に二度繰り返される。そしてその二度>>続きを読む

瞳をとじて(2023年製作の映画)

4.5

1947年、パリ郊外に位置するTriste-Le-Roy(哀しき王さま)と名付けられた村。その森のなかの邸宅にひっそりと暮らす余命わずかの伯爵のもとに、ゲシュタポに協力した過去をもつ男が呼びつけられる>>続きを読む

エル・スール(1982年製作の映画)

4.0

この映画に「南(sur)」がいちどとして映らないこと、これは意図されたものだと思っていたら、この話には続きが用意されていて、エリセはエストレリャが「南」に逢着したあとの物語も撮りたかったらしい。しかし>>続きを読む

マルメロの陽光(1992年製作の映画)

4.5

アントニオ・ロペスは、自身が秋じゅう掛かっても捉え切れなかった「マルメロの陽光」をカメラが颯爽と撮ってしまったことに何を思っただろうか。画家は映画に嫉妬するのか。庭に設えたキャンバスの中で画家が何を試>>続きを読む

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)

4.5

生まれてはじめて見聞きするものごとの数々。フィルム缶を積んだトラックに乗ってやってくる巡業映画。『フランケンシュタイン』で殺されてしまう少女の姿。汽車の接近を告げるレールの振動。指先の傷から滲む血で差>>続きを読む