近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 4ページ目

近本光司

近本光司

映画(964)
ドラマ(11)
アニメ(0)

Yannick(原題)(2023年製作の映画)

4.0

げらげら笑っているうちに、あっという間に映画は終わりを迎えている。爽快な潔さ。『Chien de la casse』で強い印象を受けていたラファエル・クナールの佇まいに完全にやられる。彼はパトリック・>>続きを読む

めくらやなぎと眠る女(2022年製作の映画)

4.0

わたしたちは村上春樹の最良の部分に沈み込んでいく。あのイマジネーションの飛ばしかたこそが村上春樹のあたらしさだったのだと確認できる。とても上質な大人のためのアニメーション。もう観てから十ヶ月も経ってし>>続きを読む

枯れ葉(2023年製作の映画)

3.0

業務用スーパーの品出し。工事のあいまに喫む煙草。通勤バスの座席配置。ラジオが伝えるウクライナ戦争の戦況。カラオケバーで出会った男女が埋めあう孤独。二人で連れ立って観に行く映画はジャームッシュのゾンビ映>>続きを読む

The Goldman Case/ゴールドマン裁判(2023年製作の映画)

4.0

抜群におもしろい。劇場にいた観客たちがわたしと同じようにだんだんと「のめり込んでいく」感じが手に取るように伝わった。1970年のピエール・ゴールドマン事件をめぐる裁判の再現を試みた法廷もの。二時間近く>>続きを読む

悪は存在しない(2023年製作の映画)

4.0

真冬の森の木立を真下から仰ぎ見る移動ショット。あの映像を見ているのはだれか、という問いのもとにこの物語がつくられたのではという気がする。そのじつ、あの映像は冒頭と結末に二度繰り返される。そしてその二度>>続きを読む

瞳をとじて(2023年製作の映画)

4.5

1947年、パリ郊外に位置するTriste-Le-Roy(哀しき王さま)と名付けられた村。その森のなかの邸宅にひっそりと暮らす余命わずかの伯爵のもとに、ゲシュタポに協力した過去をもつ男が呼びつけられる>>続きを読む

エル・スール(1982年製作の映画)

4.0

この映画に「南(sur)」がいちどとして映らないこと、これは意図されたものだと思っていたら、この話には続きが用意されていて、エリセはエストレリャが「南」に逢着したあとの物語も撮りたかったらしい。しかし>>続きを読む

マルメロの陽光(1992年製作の映画)

4.5

アントニオ・ロペスは、自身が秋じゅう掛かっても捉え切れなかった「マルメロの陽光」をカメラが颯爽と撮ってしまったことに何を思っただろうか。画家は映画に嫉妬するのか。庭に設えたキャンバスの中で画家が何を試>>続きを読む

ミツバチのささやき(1973年製作の映画)

4.5

生まれてはじめて見聞きするものごとの数々。フィルム缶を積んだトラックに乗ってやってくる巡業映画。『フランケンシュタイン』で殺されてしまう少女の姿。汽車の接近を告げるレールの振動。指先の傷から滲む血で差>>続きを読む

蜘蛛の巣(1955年製作の映画)

3.5

いつも決まってキッチンでひとり食事を取っている妙に大人びた息子が不気味。ヒューマニストの仮面をかぶった父の内弁慶、その抑圧が垣間見えるようだ。カーテンの柄をどうするかという話をハナから尻までずっと続け>>続きを読む

お茶と同情(1956年製作の映画)

4.5

十年後の同窓会で再会を喜ぶ男たちのあいだを灰色のスーツを着こなした男が横切ってゆく。周りの男たちはおい、あいつじゃないか、よくのこのこと来れるよなと囁きあうが、彼は気にもとめない様子。わたしたちははじ>>続きを読む

暴力についての瞑想(1948年製作の映画)

3.5

ダンスと暴力、いずれの形態も根源もおなじであるという霰もない事実を端的にしめす小品。Study in Violence ではなく、 Meditation on Violence と名づけているのがいい>>続きを読む

Divine Horsemen: The Living Gods of Haiti(原題)(1993年製作の映画)

3.5

終戦後にパリにもどったジャン・ルーシュがマルセル・モースやグリオールから人類学の手ほどきを受けて、再びニジェールに発ったのが1946年。ルーシュがこの観たのはいつのことだろうか。ソンガイ人を被写体に据>>続きを読む

カメラのための振付けの研究(1945年製作の映画)

3.0

ダンスの偏在を高らかに告げるオープニング・ショット。わたしたちの旋回するカメラ!

札束無情(1950年製作の映画)

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シネマテーク・フランセーズからの白紙委任状で黒沢清は本作を選び、「映画史上もっとも「完璧な」映画は何かと聞かれたらきまってこの映画を選ぶ」と、上映前に観客に向けて語っていた。!となってるあいだに終わる>>続きを読む

カリギュラ(1980年製作の映画)

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「THE ULTIMATE CUT」と名づけられた173分版を鑑賞。アメリカの大富豪が巨額を投じ、第三代ローマ帝国皇帝の生涯を題材に、イタリアのポルノ映画の巨匠に壮大なハードコア・ポルノを撮らせた。現>>続きを読む

アブラハム渓谷(1993年製作の映画)

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203分修復版。心地よすぎて深い眠りに落ちたので、劇場公開の折にもう一度。

墓泥棒と失われた女神(2023年製作の映画)

4.0

ローマで三線目となる地下鉄は都合十年近くの工事期間を経て、2013年にようやく開通を果たした。あのときローマを案内してくれた友人に、掘り進めるたびに何がしかの古代遺跡が発掘されるので、工事は度重なる中>>続きを読む

エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命(2023年製作の映画)

4.0

1858年、ボローニャに暮らすユダヤ人の大家族の6歳の少年がローマ教皇の勅令によって誘拐される。彼は生後間もない頃にカトリックの家政婦から秘密裡に洗礼を受けていたのだという。モルターナ事件として知られ>>続きを読む

クラブゼロ(2023年製作の映画)

2.5

五つのボタンを首もとまで律儀に締めた半そでのポロシャツを着るノヴァク先生(ミア・ワシコウスカ)が誘う、拒食主義の秘密結社。裕福な親たちの庇護に息苦しさを憶える生徒たちは、うつくしい新人教師の教えに惹か>>続きを読む

Jeunesse(原題)(2023年製作の映画)

3.5

「MADE IN CHINA」の向こう側にある生活。親もとを離れて河北省の直隷という土地に出稼ぎにやってくる10代半ばから20代半ばの若者たち(しかし「直隷」とは…)。毎年30万人を超える季節労働者た>>続きを読む

二つの季節しかない村(2023年製作の映画)

4.5

あの女子生徒が因縁の教師にいみじくも差しだしたチョコレートケーキさえも、わたしたちの理解を超出するものとして不気味な存在感を放つ。客席にいた誰もがあっと驚いた問題の仕掛けだけでなく、何もかもが一見する>>続きを読む

形見(1963年製作の映画)

3.5

少年はひとりでに飛びつづける白色の紙飛行機を追いかけて父の眠る墓地を駆け抜ける。若くして未亡人となった母はかたや夫の幻影に誘われ冥界に足を踏み入れる。あつめた枯れ葉を燃やし、箒をかついで煙草をくわえ立>>続きを読む

喰べた人(1963年製作の映画)

3.0

昨今の疫病の流行で、あるときわたしは食べるという行為がいかにおぞましいものかと気づかされた。食事中はマスクに覆われた口もとが露わになって、次々と食物が運びこまれ、咀嚼され、体内に取り込まれていく。この>>続きを読む

ある男(2022年製作の映画)

3.5

典型的な中肉中背で、育ちの良さを感じる妻夫木聡の立ち姿。カメラは余白を残した構図で彼の後ろ姿を執拗に収め、この作品の基底となるサスペンスの演出にひと役を買っている。この在日三世の出自をもつ弁護士は、日>>続きを読む

ワンダーストラック(2017年製作の映画)

3.5

ニューヨークの一角に構える古本屋の造型がすばらしい。ミネソタの片田舎から父を索めて飛びだした少年と、古本屋を営む滋味ぶかき年老いた店主と、すらりとして瀟洒な格好をした老婆。二人の聾者をふくめたその三人>>続きを読む

Disco Boy(原題)(2023年製作の映画)

2.5

主演の男の顔には見覚えがあった。何年か前のドイツ映画で巨大な倉庫でトラクターを乗り回していた男だ。ここではベラルーシから不法に国境をわたる過程で盟友を亡くし、フランス外人部隊に入隊し、厳しい訓練に耐え>>続きを読む

アダマン号に乗って(2022年製作の映画)

3.5

決定的な瞬間は一度も映らない。カメラが欲張ってそれを撮ろうとすれば、このドキュメンタリーはたちまちフィクションの性格を帯びて別物になっていただろう。セーヌ川に浮かぶ小舟に集う人びとの日々は、わたしたち>>続きを読む

欲望のあいまいな対象(1977年製作の映画)

4.0

コンチータ、コンチータ! フェルナンド・レイが熱を上げる若い女の役どころを二人の異なる女優が交互に演じている。欲望のあいまいな対象。老年期に差し掛かろうとする金持ちの男は甘い言葉を弄して彼女(たち)へ>>続きを読む

哀しみのトリスターナ(1970年製作の映画)

4.0

おそらくエル・グレコの時代からそう変わっていないだろうトレドを舞台に、母の喪に服していた純朴な少女が、独占欲のつよい男に手篭めにされ、やがて病で片脚を失って性悪な女に変貌を遂げる。前半と後半でまったく>>続きを読む

小間使の日記(1963年製作の映画)

4.5

1930年代のフランス。モダンな雰囲気を纏ったジャンヌ・モローが小間使いとしてパリから鄙びた土地に立つ豪邸にやってくる。夜な夜な部屋に呼び出し秘蔵の女性靴のコレクションを履かせる老主人。あらたな女中の>>続きを読む

12日の殺人(2022年製作の映画)

3.5

彼女は友だちの家からの帰路で、何者かに突然ガソリンを被せられ、見るも無惨な姿で焼死する。誰が、なぜ殺したのか。彼女のほうに殺される原因はなかったのか。警官の男たちはさまざまな仮説を立てて捜査を進めるが>>続きを読む

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023年製作の映画)

3.0

はじめの数十分は、ひょっとしていまとんでもない傑作を目撃しているのではないかと昂奮が止まらなかった。配管工のマリオがブルックリンの路地裏を横スクロールで駆けていくトラヴェリング。ピーチ姫のもとで修行を>>続きを読む

ショーイング・アップ(2022年製作の映画)

4.5

2022年のカンヌ映画祭のラインナップ発表記者会見で、ティエリー・フレモーは本作を film de décroissance と評していた。アメリカ映画のオルタナティブとしての一種の斜陽。にもかかわら>>続きを読む