近本光司さんの映画レビュー・感想・評価 - 3ページ目

近本光司

近本光司

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形見(1963年製作の映画)

3.5

少年はひとりでに飛びつづける白色の紙飛行機を追いかけて父の眠る墓地を駆け抜ける。若くして未亡人となった母はかたや夫の幻影に誘われ冥界に足を踏み入れる。あつめた枯れ葉を燃やし、箒をかついで煙草をくわえ立>>続きを読む

喰べた人(1963年製作の映画)

3.0

昨今の疫病の流行で、あるときわたしは食べるという行為がいかにおぞましいものかと気づかされた。食事中はマスクに覆われた口もとが露わになって、次々と食物が運びこまれ、咀嚼され、体内に取り込まれていく。この>>続きを読む

ある男(2022年製作の映画)

3.5

典型的な中肉中背で、育ちの良さを感じる妻夫木聡の立ち姿。カメラは余白を残した構図で彼の後ろ姿を執拗に収め、この作品の基底となるサスペンスの演出にひと役を買っている。この在日三世の出自をもつ弁護士は、日>>続きを読む

ワンダーストラック(2017年製作の映画)

3.5

ニューヨークの一角に構える古本屋の造型がすばらしい。ミネソタの片田舎から父を索めて飛びだした少年と、古本屋を営む滋味ぶかき年老いた店主と、すらりとして瀟洒な格好をした老婆。二人の聾者をふくめたその三人>>続きを読む

Disco Boy(原題)(2023年製作の映画)

2.5

主演の男の顔には見覚えがあった。何年か前のドイツ映画で巨大な倉庫でトラクターを乗り回していた男だ。ここではベラルーシから不法に国境をわたる過程で盟友を亡くし、フランス外人部隊に入隊し、厳しい訓練に耐え>>続きを読む

アダマン号に乗って(2022年製作の映画)

3.5

決定的な瞬間は一度も映らない。カメラが欲張ってそれを撮ろうとすれば、このドキュメンタリーはたちまちフィクションの性格を帯びて別物になっていただろう。セーヌ川に浮かぶ小舟に集う人びとの日々は、わたしたち>>続きを読む

欲望のあいまいな対象(1977年製作の映画)

4.0

コンチータ、コンチータ! フェルナンド・レイが熱を上げる若い女の役どころを二人の異なる女優が交互に演じている。欲望のあいまいな対象。老年期に差し掛かろうとする金持ちの男は甘い言葉を弄して彼女(たち)へ>>続きを読む

哀しみのトリスターナ(1970年製作の映画)

4.0

おそらくエル・グレコの時代からそう変わっていないだろうトレドを舞台に、母の喪に服していた純朴な少女が、独占欲のつよい男に手篭めにされ、やがて病で片脚を失って性悪な女に変貌を遂げる。前半と後半でまったく>>続きを読む

小間使の日記(1963年製作の映画)

4.5

1930年代のフランス。モダンな雰囲気を纏ったジャンヌ・モローが小間使いとしてパリから鄙びた土地に立つ豪邸にやってくる。夜な夜な部屋に呼び出し秘蔵の女性靴のコレクションを履かせる老主人。あらたな女中の>>続きを読む

12日の殺人(2022年製作の映画)

3.5

彼女は友だちの家からの帰路で、何者かに突然ガソリンを被せられ、見るも無惨な姿で焼死する。誰が、なぜ殺したのか。彼女のほうに殺される原因はなかったのか。警官の男たちはさまざまな仮説を立てて捜査を進めるが>>続きを読む

ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー(2023年製作の映画)

3.0

はじめの数十分は、ひょっとしていまとんでもない傑作を目撃しているのではないかと昂奮が止まらなかった。配管工のマリオがブルックリンの路地裏を横スクロールで駆けていくトラヴェリング。ピーチ姫のもとで修行を>>続きを読む

ショーイング・アップ(2023年製作の映画)

4.5

2022年のカンヌ映画祭のラインナップ発表記者会見で、ティエリー・フレモーは本作を film de décroissance と評していた。アメリカ映画のオルタナティブとしての一種の斜陽。にもかかわら>>続きを読む

ファースト・カウ(2019年製作の映画)

4.0

サンフランシスコから河をさかのぼって開拓地に連れて来られた一頭の雌牛。あの小舟に乗せられた雌牛の堂々とした姿と、その到着を静かに見守るインディアンの子どもたちのショットが繋がれる。彼女たちは生まれては>>続きを読む

ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択(2016年製作の映画)

4.5

どれも絶妙な按配の秀作だが、とくに三つめの掌編がたまらない。モンタナ州の鄙びた土地でちいさな牧場を営むジェイミーを演じたリリー・グラッドストーンという俳優の純朴なまなざしにくらりと来る。そこにほっそり>>続きを読む

ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画(2013年製作の映画)

4.0

なによりもまず主人公の三人組の声と喋りかたがいい。ジェシー・アイゼンバーグがぼそぼそと呟く平坦な声。張りのある明るさで聡明さの伺えるダゴタ・ファニングの喋り。そしてピーター・サースガードはどっしりと構>>続きを読む

エル(1952年製作の映画)

4.0

ラカンがこの映画を観て興奮を隠せなかったという逸話に納得。

アルチバルド・デラクルスの犯罪的人生(1955年製作の映画)

3.0

主人公が気に入った若い女の殺人を計画するたびに、済んでのところで失敗し、女たちはなぜか別の理由で死んでしまう。痺れを切らした主人公は、あまつさえ女を模した等身大の人形をつくって、それを葬ろうとする。い>>続きを読む

銀河(1969年製作の映画)

3.5

南仏からサンティアゴ・デ・コンポステラをめざす巡礼の道をゆく二人組が生きる六十年代の暮れの現代を中心に、流謫の旅に出ているイエス・キリストとその取り巻きや、中世から近代に至るまでの人々など、さまざまな>>続きを読む

39 刑法第三十九条(1999年製作の映画)

3.0

2000年ぐらいの気分がうまく切り取られている。わりあいに好き。

失楽園(1997年製作の映画)

3.0

役所広司と黒木瞳によるブランクーシ《接吻》の再演。これだけで見たくなるでしょう。べつに……という感じもあるが。

家族ゲーム(1983年製作の映画)

4.5

10年振りに再見。小舟に乗ってやってくる松田優作にくらくらしっぱなし。

めし(1951年製作の映画)

5.0

成瀬がすばらしいのはスクリーンに投影された人びとがいままさに真実の感情を生きているのだという感覚をもたらすからだ。同じ屋根の下に暮らす上原謙の女中に成り下がったかのような結婚生活に嫌気のさした原節子は>>続きを読む

細雪(1950年製作の映画)

3.0

三度の映画化の一作目。このまま8年後の島耕作版も観くらべたかったのだが、観る手立てがない。大阪の旧家のもとに生まれた四姉妹が受苦する没落の過程が生々しく描かれる、1950年当時の文芸大作。製作費はほか>>続きを読む

しとやかな獣(1962年製作の映画)

2.5

父(伊藤雄之助)がベランダに出て、東京湾の埋め立て地に連なる工場のほうに向けた望遠鏡を覗く。するとショットが切り替わって、同じ時間にシャワーを浴びている娘(浜田ゆう子)の裸体が映る。まるで父が娘の浴室>>続きを読む

無限の青空(1935年製作の映画)

3.5

初期のハリウッド映画とは、第一に人間の仕事を世の中に見せることだったのだと、ゴダールのかつての盟友ジャン=ピエール・ゴランは語っていた。この映画で描かれる使命感を帯びた飛行士たちの紐帯はなにより見てい>>続きを読む

The Musketeers of Pig Alle(原題)(1912年製作の映画)

4.0

レンガの壁に張り付いた二人のギャングたちがゆっくりとカメラに近づいてくる。あんなショットが111年前に撮られていたなんて、すごすぎて腰を抜かすかと思った。序盤で椅子に座ってぶつくさと言っていた老婆がそ>>続きを読む

キートンのカメラマン(1928年製作の映画)

5.0

小さな躯体のバスター・キートンがニューヨークの雑踏のなかを駆け抜けていく。デートの約束がある待望の日曜日がやってきて、電話口で彼女の声を聞いたらいても経ってもいられなくなり、受話器を放り投げ、ストリー>>続きを読む

銀座カンカン娘(1949年製作の映画)

3.5

1949年に「指をさされて カンカン娘/ちょいと啖呵も 切りたくなるわ/家はなくても お金がなくても/男なんかにゃ だまされまいぞえ/これが銀座の カンカン娘」と歌わせるのに、高峰秀子以上の適任がほか>>続きを読む

新道 後篇良太の巻(1936年製作の映画)

3.0

恋人の急逝に打ちひしがれる田中絹代のお腹には佐野周二の子が宿っている。このメロドラマのど真ん中をいく展開にちょっと力が抜けてしまうのだが、価値観がまるきり異なる斉藤達雄と田中絹代の父娘が手紙の交換を通>>続きを読む

新道 前篇朱実の巻(1936年製作の映画)

3.5

田中絹代がくるくると身を翻して大広間を走り廻る、それだけで画面がぱあと明るくなる。脇を固める俳優陣もみなうら若く輝いていてすばらしい。高峰秀子、川崎弘子、そして松竹三羽烏のそろい踏み。そしてわれらが愛>>続きを読む

地獄の警備員(1992年製作の映画)

3.0

松重豊の片耳にイヤリングを下げて、夜中のオフィスを静かに徘徊させるというアイデアが堪らない。元力士の逃亡犯という設定のすらりとした松重豊、ウィスキーをストローで注入する大杉漣。こんなお茶目があちこちに>>続きを読む

月世界の女(1929年製作の映画)

4.0

1969年にニール・アームストロングがはじめて月の大地に一歩を踏み出したずっと前から、人類は空想の世界で幾度となく月面旅行を果たしていた! ロケットに紛れ込んだ少年が愛読する宇宙ものの漫画。月面にたど>>続きを読む

ボディ・スナッチャー/恐怖の街(1956年製作の映画)

4.5

カリフォルニア州のサンタ・ミラという小さな町に奇妙な噂が出回りはじめる。見た目も声も記憶もすべて同じなのに、ある日を境に家族が突然別人になってしまったと証言する者が後を立たないのだ。はじめはまともに取>>続きを読む