鑑賞者

王様ランキングの鑑賞者のネタバレレビュー・内容・結末

王様ランキング(2021年製作のアニメ)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

友人の鑑賞要請を受けて。

もうね、毎話涙無しには観られない。ボッジが泣く度にこっちも泣いちゃう。涙腺が再配腺された模様……。

まず、作画が本当に素晴らしい。今までに観たアニメで一番の作画だった。これぞアニメーションよ。animateされてる。ただの“イラスト”の寄せ集めアニメとは違う。
描き込みの細かさじゃなくて、言わば芸の細かさ。観てて心配になるくらい凝ってる。単純な画調にすることでこの創造性が可能になってるわけだね。
特にep.19のカゲとカゲ母の感情描写には感服した。人間の感情を非人間に投射する技の巧みさ。しかも「強がりの笑顔」っていうこれまた複雑な感情を。これ大発明では。

カゲと言えば、“影”である存在が最後にはボッジの“太陽”になるっていうキャラの組み立て方も実に秀逸。
そして同時に友情論としても非常に重要な視点。友情(ひいては人間関係一般)において重要なのは「相手が自分に何を与えてくれるか」ではなくて「自分が相手に何を与えてやれるか」。つまり真の友情においては、人は相手にとっての太陽として光を与える存在であろうとせねばならない。(ちなみに、人に与える存在になるためには、始めに与えられるものを持っている必要がある。今作が描く「成長」のテーマもここに絡んでくる。)

障がい者を主人公にしたことは素直に称賛したい。
それに関連して「弱者肯定」が本作のテーマ。そしてそのアプローチは、「どんな弱者にも強みや得意があるのだから、みんな強者になれる」というもの。でもね、一切の強みや得意をもたないような弱者だっているかもしれないでしょ?そういった弱者の存在可能性を甘く見すぎでは。徹底的な弱者に対して本作のアプローチはまったく役に立たない。(一瞬、城下の盲聾の人のくだりで、「強さとは何か」という重要な問題提起があったが、結局その後には展開なし。残念。)
僕が思うに、真の弱者肯定はそもそも強弱という“力”の基準そのものを棄却することでしか成し得ない。そのためには王様“ランキング”というシステム自体を否定せねばならない。もっと言うと、真の弱者肯定の道は『王様ランキング』という作品が自己反駁を完遂したときに初めて拓かれるということ。

もうひとつのテーマが「他者を幸せにすること」。重要なのは、ミランジョ母のセリフにもあるように、人の幸せの上に“自分の幸せ”も築くことであって、苦痛に塗れ世界を憎む自殺的自己犠牲ではない。
これは個人的な話だが、僕は利己主義と利他主義の両立可能性に強い関心がある。一般に両者は背反する立場と考えられているが、僕はそうじゃないと考えてる(考えたい)。じゃなきゃ救いがないんだよ。全員幸せになれないんだよ。その意味で本作は僕の直観をより強固にしてくれた。
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