めしいらず

フランダースの犬のめしいらずのレビュー・感想・評価

フランダースの犬(1975年製作のアニメ)
4.0
これぞ名作。ネロのような清廉潔白な生き方ができている人などとてもいそうもないけれど、彼を追い詰めていく如何にも人間らしい悪感情にはとても現実味がある。娘を取られたように感じネロに辛く当たるコゼツの父親らしい嫉妬心。権力者に阿りそれを笠に着て貧しい者を見下すハンスのいやたらしさ。ネロの人柄をよく知りながらも放火の疑いがかかるやすぐさま背を向ける村人たち。なんて人間的なんだろうかと思う。でもネロは優しいおじいさんの生き様そのままに、苦しい時も悲しい時も悔しい時も人前で絶対に涙を流さず、最後まで人を恨まなかった。常に自分を後回しにして他の人を優先した。彼に打算はひとかけらもない。その純真な健気さに改めて己の不甲斐ない生き様を見つめ直さずにはいられない。そんなネロだからこそ手を差し伸べてくれる人々の善意もまた本物で、彼らは自分のためではなく傷んだ他人のために憤り、涙を流し、寄り添える者たちだった。ネロの生き様と言い、この美しい人と人との関係性と言い、陳腐な言い方と分かっていても”心が洗われるよう”と言ってしまいたい。パトラッシュは神さまがネロに遣わした天使だったのかも知れない。
よーく分かっているお話なのに今観ても泣いてしまう。コンクール出品用のパネルを買うためのおじいさんのアルバイトと、その優しい気持ちを余さず汲んで手放しで喜ぶネロの場面。余命が少ないと自覚したおじいさんが最後に荷車を引きながら幼い日から今までのネロとの日々を思い返す場面(オルゴール風のBGMが哀しい)。あらゆる人の善き心が一歩だけ遅れを取ってしまった最終話の忸怩たる思い。そんなこととつゆ知らず、ようやく叶った願いに幸福感に包まれて迎えた聖なる死。いつまでも心に残り続ける場面がいっぱいある。
再鑑賞。
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