夏藤涼太

平家物語の夏藤涼太のレビュー・感想・評価

平家物語(2021年製作のアニメ)
4.3
#1話
今のTVアニメでこんな売れるとは思えないド古典をやるなんて、しかも1クールでやれるような内容じゃない…だけど、スタッフもキャストもゴリゴリの実力派。期待半分不安半分で見たけど…最高かよ。
劇場版と言われても驚かないほどのクオリティ。マジでアニメ版大河ドラマ。

主人公がオリキャラで異能力というのはちょっと気になるが、このスタッフなら上手く調理してくれるだろう。一瞬、歴史小説というより伝記小説的な趣きを持たせるのかとも思ったが、1話の最後が殿下乗合事件だったので、原典をかなり尊重してるのがわかったので安心した。
徳子のキャラとかには女性クリエイターみを感じたね。
櫻井孝宏なのに善人ポジなのは笑った。でもこの先は…

しかしアニメでは平家物語、大河ドラマでは鎌倉殿の13人って…中世日本史オタクにとっては狂喜乱舞するようなクールだな??
とくに大河はまだしも、この #平家物語 は採算度外視で作ってる気がするぞ。ありがてぇ、ありがてぇ……

#3話
作画も演出も台詞回しも音楽もキャストも最高にクオリティ高いし、梅の花や藤の花の1本に至るまで手が抜かれていないのには恐れ入る。
原典へのリスペクトも、深夜アニメとは思えないアプローチの仕方で、この時代のオタクとしては文句なしの出来栄えなんだけど…これ、この辺の時代の知識ない人はついてこれてるのだろうか…
歴史的な出来事や多すぎかつ複雑な登場人物の解説はほぼないし、時代もポンポン進んでく。

まぁ知らなければ知らないで、びわの視点で歴史の諸行無常っぷりを楽しんでくれってことなのかもしれないが。
大河ドラマみたいな時代表記や人物名のテロップすらないあたり、これも1つの狙いなのかな。
とくに不条理に見舞われる女の視点や心情は強調されて描かれているし。

ところで、ちょうど鎌倉殿の13人の裏側になってて面白いね。放送時期はやっぱり狙ってたのだろうか。

#7話
「望まぬ運命が不幸だとは限りません。望みすぎて不幸になった人たちを多く見てきました。得たものの代わりに何を失ったかもわからず、ずっと欲に振り回され……私は、泥の中でも咲く花になりとうございます」
出家すると父を脅してからの、蓮の花を踏まえたこの台詞は脚本が上手すぎるわ。吉田玲子パネェ…

#9話
一ノ谷の戦いをどうアニメで描写してくれるか楽しみにしてたが…逃げたな、サイエンスSARU
と思ったら敦盛と熊谷直実の例のくだりがあまりに見事だったので、これは良しとするしかねえ

びわが静御前と出会って、まさかここから源氏方と関わるのかと思ったが、今回限りか。びわが、平家鎮魂のために平家物語を謳うオチは予想できてたけど、そこに母のドラマが絡んでたとは…オリジナル部分もうまいわ

#11話(最終話)
今季の作画アニメは王様ランキングかと思っていたが…入水シーンの作画の演技の細やかさたるや
水のアニメーション表現は、あのジブリでさえ二の足を踏むほど難しいものだが、それをTVアニメでここまで流麗に見せるとは恐れ入った。まさに、山田尚子のこだわりとサイエンスSARUの技術力が結実した大傑作。

しかしそれを超える感動をもたらしてくれたのが、大原御幸の段。自然描写の凄まじさに泣いてしまうなんて、アニメ史を参照しても宮崎駿作品以来では?

というか、アニミズムの精神性をしっかり受け継いでいるという点では、細田や庵野や新海よりよっぽどポスト宮崎駿的作品かと。つーか普通に美術スタッフに男鹿和雄がいるんじゃないかと思ったレベル。
もちろん、牛尾憲輔の音楽も素晴らしかった。

『平家物語』を現代でTVアニメ化するなんて、普通にやったら売れないだろうし、かなり現代風に、ポップにやるかと思ってたから、予想外に原典をリスペクトする作風の時点で感動してたのに…
「自然描写で感動させる」というスタッフの心意気には、ただ平家物語を素直にアニメ化したというだけではなく、アニミズムの香りが世界的に見ても極めて高い、日本文学をアニメーションにするんだという、誇り高き魂を感じた。

2クールで見たかったとか、もっと合戦シーン見たかったとか…出来が良かったために要望はいくらでも出ちゃうけど、本当に素晴らしい作品だった。
個人的には今季1。
というかアニメでは平家物語、大河ドラマでは鎌倉殿の13人、漫画では逃げ上手の若君と、まさに中世日本史オタクにとっては天国のようなクールだった。恐悦至極の至り。
夏藤涼太

夏藤涼太