カニ組長

よふかしのうた 第1期のカニ組長のネタバレレビュー・内容・結末

よふかしのうた 第1期(2022年製作のアニメ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

まず、夜という名の舞台照明が完璧過ぎる。幻想的で魅力的な夜や、不安と寂しさに満ちた夜などが、場面や登場人物の心情によって非常に細かく使い分けられており、その鮮やかな色彩の変化のこだわりには感激するものがあった。

物語自体は不登校の少年、夜守コウが夜更かしついでに夜の街を彷徨っていた時にたまたま出会った吸血鬼、七草ナズナの生き方に憧れ、自分も吸血鬼になるためにナズナと共に怪しくも魅惑的な夜の街で夜遊びをするという内容。
この作品、面白いのは、吸血鬼の眷属になるには、血を吸われることの他にその相手の吸血鬼に恋をしなければならないという制約があるという点。その条件一つで恋愛要素や作品の奥深さが一層増していたように思う。

この作品における、吸血鬼の印象は序盤と終盤でかなり違う。
序盤、吸血鬼は俗世から外れた自由の象徴のように描かれる。七草ナズナは夜守くんのように俗世間に疲れた視聴者に向けて楽しい自由な夜を見せてくれる。
しかし、ナズナの仲間の吸血鬼が出てきた中盤辺りからその印象はガラリと変わる。
夜守くんとナズナの2人だけの世界では見えなかった吸血鬼の闇の部分が見えて来るのだ。
吸血鬼になったからといって自由になる訳じゃない。生活するにはお金が必要だし、生きてく上では定期的に血も吸わなきゃならない。かと言って明確な寿命はない。現実逃避をしたかった夜守くんにとってはまさに生き地獄。
さらに望まない形で吸血鬼になった人間の末路も見てしまった夜守くんと視聴者は大いに悩まされる。吸血鬼になって果たして本当に幸せになれるのかと。

私は思う。吸血鬼として比喩されているが、これは現実世界でも起こりうる葛藤では無いかと。自分のやりたい進路を進む時、決して楽な道でないことは往々にしてある。さらに周囲の人間はお節介とばかりにその道の悪い部分を丁寧に教えてくれる。そんな時、夜守くんのように立ち止まって考え込みたくなることが誰しもあるのでは無かろうか?
この作品ではそんな立ち止まっている人たちに一つの答えを示している。
要するに、彼女(夢)と一緒にいたい、それだけで夢を追うには十分なのだ。

そして、最後の夜守くんの選択。いわゆる恋愛における愛は無かったかもしれないが、確かにそこには愛があった。
カニ組長

カニ組長