空化

リコリス・リコイルの空化のレビュー・感想・評価

リコリス・リコイル(2022年製作のアニメ)
1.5
リコリス・リコイルは可愛いキャラクターデザインと裏腹に、シリアスなプロローグで一話が始まる。

大きな街が動き出す前の静けさが好き。
「平和で安全、綺麗な東京」
日本人は規範意識が高くて、優しくて、温厚。
ーーー法治国家、日本
首都東京には危険などない。
社会を乱す者の存在を許してはならない。存在していたことも許さない。
消して。消して。消して。
綺麗にする。
危険は元々無かった。
「平和は私たち日本人の気質によって、成り立っているんだ」
そう思えることが一番の幸せ、それを作るのが私たち「リコリス」の役目なんだってさ

単純に「カワイイ女子高生が銃を華麗にぶっぱなす」アニメを想像していた私は想定よりシリアスな設定に心が躍った。
「生きる・死ぬ」ではなく、「社会が監視社会によって成り立っていたら」のような現代的なテーマ。
どうやってそこに切り込んでいくのかーーー
この冒頭で期待が高まり最後まで見たが、この冒頭こそが大失敗だった。
大失敗ポイントを列挙した後、良かった点も挙げたいと思います。






・平和を支えるため国家が殺人をしてまで保つ平和の意味を問い直さない、責任をとらない大人

冒頭であれだけの壮大な設定のプロローグをしておいて、冒頭の問題点を問い直さない。
一方的な殺人で成り立つ平和な日本の現状維持を肯定して物語は終わる。
日本の平和維持のため暗躍する秘密組織DA
DAに敵対する組織の主犯格「真島」は世界のバランスを取り戻すため、DAやリコリス(DA所属の女子高生)を標的に襲撃を続ける。
真島の目的が分かってからは、世界のバランスを取り戻そうとする真島の活動の方がDAよりよっぽど筋が通っていたと思う。
ではテロリスト真島が「まとも」に思えてくるほど私が期待した冒頭の設定。
ここにどんな問題があるかを考える。

①平和維持のため国家が殺人を行っている
②その殺人を女子高生(子供)に実行させている
③国民はそれを知らないまま平和を享受している
④危険分子の存在を一切認めない排他的社会は、何をもって危険分子の認定をするのか

ざっと挙げられる問題は4つ。
この4つの問題を孕んだプロローグを千束が可愛らしい声で語るからこそ、不思議なシリアス感が生まれていて良い演出だった。
ではこの4つの問題に対して物語は答えを出したのか。一つも出さなかった。
一つずつ物語での触れ方を振り返っていく。

①平和維持のため国家が殺人を行っている
国民から特に否定されない。一瞬、秘密組織DAの存在が明るみに出かかってパニックになりかけるが「ドッキリでした」オチでなんとか乗り切ってしまい終わり。その後特に世論が盛り上がるとかはない。

②その殺人を女子高生(子供)に実行させている
平和を支えるため身寄りのない子供を集めて教育を行い、殺人させる秘密組織DA
大人は何も責任をとらない(DAのこと文字起こししたけど改めて最低な組織だ)
身寄りのない子供を集めて殺人させる大人の反省は一部の人間にある。
しかしその反省も特定の主人公に向けたものであって組織全体の子供に向けたものではない。
また、組織の中心にいる人間で特に反省は無い。

③国民はそれを知らないまま平和を享受している
前述のとおりDAの存在がバレかけるが、国民はコロっと騙されたので特に変わりなし

④危険分子の存在を一切認めない排他的社会は、何をもって危険分子の認定をするのか
特に言及なし。銃火器を所持している、謎の「危険度」とかで判定していた。

トンデモガバガバ設定でした。
「平和維持のため秘密裏に殺しをする要素」が孕むメリットとデメリットについてあまりに制作側が無責任すぎる。
むしろプロローグの設定を幼稚にして
「日本の平和を陰から守るため、制服で戦う女子高生治安維持部隊!」
として分かりやすい正義vs悪にしたほうが、キャラクターの可愛さに集中できて良かったと思う。

またこちらのインタビューでは最初シリアスだった短い小説が監督・足立の参加によって物語が明るい空気になっていったと言及がある。
これは邪推になるが、シリアスな小説(冒頭設定)に対して『今』の視聴者にどうするか考えた監督・足立のMIXが全く上手くいってなかったと思う。水と油だったのではないだろうか。



・オタクが好きな踏み込まない百合と悲恋に終わるテンプレBL
最後に浜辺で千束とたきなはキスすらしない。オタクが嫌いな同性愛になっちゃうから。
「物語の途中に男性同士の恋愛もあったろ」と言われるがあまりにもテンプレすぎる悲恋BL
オタクに何が受けるかを考えた監督なので、女の子同士で下着を買いに行かせるようなウケる同性愛に終始したんでしょう。



・不要なキャラクターの登場シーンが多い

ストーリー設定は全く触れないくせに、ストーリーで特に必要のないキャラが無駄に尺を食っていた。
物語の中で「車動かしたい」「ドローン動かしたい」で何となく入れられたキャラクターなんじゃないか。
特にミズキは全く必要性感じなかった。
「結婚したいけどできない年増」の役割を演じ続け、たまに物語を進めるために運転をする程度。
まず初婚平均年齢が上昇し続ける日本で「結婚できない年増・ミズキ」は全く年増じゃない。そうなるとアニメ作品にありがちな「結婚できない年増(せいぜい30代)」は00年代オタク作品のテンプレだ。
「急に現実持ち出すな、フィクションだ」と言われるだろうが、じゃあその「オタクの幻想・テンプレ」がなぜ安易に持ち出されるかを考えると、「結婚したいけどできない女」を見て「こいつ結婚できんのかw」と昭和の冷やかし上司的ポジションをとることで安心できるオタク君の精神安定剤じゃないのか。これまた私の邪推なので、ミズキの「結婚できない年増」設定にオタク作品の典型的なキャラ付け以外に説明を出来る人はなんとでも言ってください。

更に言及していくとクルミも要らないんじゃねーかとまで思えてくる始末の物語。
結局物語として「千束とたきなの百合」をしたかったのか「喫茶リコリコのあったかい物語」をしたかったのかすら中途半端に終わってしまった。



・キャラデザ、作画は良かった
ここ何年かのアニメ(私の観測範囲はあまりに狭いが)では抜群にキャラデザが良くて、作画も良かった。
作画も中弛みすることなく、高いクオリティを最後まで維持していてA-1 Picturesのレベルの高さが見て取れた。




以上振り返りです。
「求めているものが違ったね」と言われればそれまでだけど、それなら「中途半端にシリアスな設定作らずに雑な百合だけやっとけよ」としか思えない作品でした。
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