原作は1978年に描かれた作品ですが、再アニメ化するにあたって舞台は現代となっており、スマホや薄型のテレビなどが登場します。しかし「世界各地の過去に戻って人々を救う」という基本設定に変化はないので原作が好きな方にも安心して薦められる作品になってるな、と思いました。
タイムトラベルをして過去を変えることの是非は「変えても問題ない人のみを救う」という論理で行われており、その設定上の都合をある程度受け入れて観る必要があります。バタフライエフェクトの理論で言えば過去を少しでも変えた時点で未来は全く違うものになるはずなので、そういう意味で言えばそもそもタイムパトロールの仕事って突っ込みどころが多すぎると思いますし。
なので本作を見る際はある程度リアリティラインを下げて、「過去の世界を観光する」という部分を一番のメインにして視聴するのが楽しい見方だと私は思います。
89年に作られたアニメスペシャル版からの再アニメ化であり、ネットフリックスという規制が少ない媒体ということもあって、原作にある「残酷さ」は割としっかり再現されていました。1話目からしてぼんが誤って友人をベランダから突き落とすシーンから始まりますし、飛んできた矢がもろに身体に突き刺さるシーンや、戦争で首ちょんぱされてる兵隊も映されます。特にきつかったのは5話「魔女狩り」の話でセリーヌに対する拷問シーンは省略なしで描かれていました。そんな感じでだいたいどの話でも血なまぐさいシーンがあるので、ドラえもんと同じノリで見ると面食らう人もいるかと思います。そもそも原作が発表された媒体は中高生向けの漫画雑誌であり、ある程度高度な内容になっているのはそのためです。
とはいえそれら残酷さや流血シーンはショッキングな話を描くという目的で用意されたわけではありません。この作品は、過去に戻り、これまでの人類史を辿ることで、人類がどのような行いをしながら社会を発展させてきたのかを描いた作品なのです。そこには『ドラえもん』を代表とする児童向け漫画では伝えきるのが困難であった人間の残虐さや、戦争の凄惨さ、薄暗い感情があります。今回のアニメ化ではその「T・Pぼん」だからこそF先生が取り組もうとした、お話の「強み」をしっかりと理解していたように思います。変えようとすればもっとポップな作風にすることもできたはずですし、血なまぐささは抑えるおこともできたはずですが、あくまで原作に沿うかたちにする作りとなっていました。
これは私の勝手な想像ですが、製作スタッフの意識には「藤子F先生が生きていたとしたらどのような再アニメ化」を希望するか、という考え方があったのではないでしょうか。それが「ぼんの住む時代は現代にする」「大筋やキャラクターや1話ごとで起こることに対する変更は極力抑える」という作り方に繋がったのだと思います。結果的に原作の良さを失わず、いま見ても楽しい、歴史教養アニメとしての側面も持つ良質な作品に仕上がっているように感じました。
シーズン1における最終話ではオリジナル要素も入れており、これもそこまで丁寧に原作に沿って作ってきていたため違和感はなく、受け入れられるものでした。
ぼんが迂闊な行動を取りがちだったり、リームが説明不足・準備不足だったりすることもありますが、それが話を展開させることに繋がってますしこれについても原作通りなので野暮は言いっこなしです。というかそういう事を言い始めるとそもそも中学生や高校生くらいの年頃の子にタイムパトロールなんて重要な仕事を任せちゃう状況に無理があるやろ、と思いますし。
かつてのテレビスペシャル版は1話だけの90分くらいで構成されたものだったためダイジェスト感があったことは否めず、しかしあれはあれで原作前半の良いとこ取りをしたアニメだったので私は好きなのですが、やはり今回のように1話24分、12話の構成で作られると満足度は高いです。
そしてやはりリームですね。中学生のぼんに対して高校生くらいのリームを相棒に持ってくるというキャラ配置だけで関係性萌えとしては抜群に惹かれてしまいます。見た目といい性格といいキャラ設定といいかなりつよつよな子で、中学生男子にとっての憧れみたいなものがつまったキャラだと思います。真面目で頼りになる雰囲気は声優さんの演技でもちゃんと出ていましたし、やっぱ良いですリーム。
というわけで、原作ファンにとっておおむね満足の行く出来となっていますし、原作を未読の方、旧アニメを未視聴の方にとっては「ドラえもん」の絵柄でちょっとハードな歴史アニメが観られる新鮮な魅力を持った作品になっていると思います。
シーズン1はあっさりとした感じで幕切れとなりますが、シーズン2もあるのでこれくらいの終わり方の方が続きも観ようって気になりますね。