原作味読、オリジナルドラマ未鑑賞
「将軍 SHOGUN」に「ゲーム・オブ・スローンズ」を感じた人は少なくないんじゃないだろうか。私は巨大な龍(西洋のドラゴンではなく東洋の龍)が登場しても驚かなかっただろう。
「ゲーム・オブ・スローンズ」、「ロード・オブ・ザ・リング:指輪の力」の隣に並べても怒る人は少ないのではないかと思う。
ダークなトーン、残酷描写、凝った衣装や美術。大阪城を中心に広がる大阪の街や建築中の江戸城を、あのスケール感で見たのは初めてだった。多くの日本人もそうだったはずだ。ガルバリン砲に直撃するサムライを見たのも初めてだ。
役者が話す日本語が、当時のリアルかどうかわからないが、それも聞き馴染みがないものの心地いい。浅野忠信だけは浅野忠信っぽくて、そこが面白かった。
香原斗志という歴史評論家が「事実と違う」という記事を書いていて、この人は「家康どうする」についても事実との違いを指摘している。「ナポレオン」の時も海外で同じような議論があった。監督のリドリー・スコットは「くだらん」と一蹴。主演ホアキン・フェニックスは細かな指摘に対して「クソ面白くない」と言い放った。
歴史物とはいえ原作がある場合は、原作から大きく外れる事はない(例外はある)。そして、映画という娯楽作品はドキュメンタリーではない。また、誰も見た事がない、記録がない部分については想像で埋め合わせるしかない。
私は、歴史映画を観る時は最初から全てが真実だとは思わない。観た後に実際はどうだったかを自分で調べてみる。そこで知る事はたくさんあるし、歴史映画にはそういう面白さがあって、興味のきっかけとして楽しんでいる。
春秋戦国時代を描いた中国ドラマの大作「始皇帝 天下統一」は詳細な取材をしたと謳っているが、最終回の最後に「始皇帝の功罪は歴史上さまざまな意見や論争がある、この議論はこれからも続くだろう」としている。「このドラマが全てではない」と断っていたのは上手いなと思った。実際、始皇帝の物語は根本的に資料が少なく「史記」には人間ドラマなんで書いていないのだ。
日本の実写版「キングダム」シリーズは漫画原作に忠実に作っているが、事実と照らし合わせると創作されたキャラクターも多い。それなのに事実との違いを指摘する声はあまり見かけない。むしろ事実と比べる事で史実を学んでいる風潮さえある。YouTubeには「キングダム」と史実を比べる動画がたくさんあるのだ。
劇中「秀吉の朝鮮出兵」に触れる場面がある。実は物語の裏側、朝鮮半島では激しい争いが繰り広げられていた。1話で秀吉が息を引き取るが、そのタイミングで日本軍は朝鮮半島から撤退する。
韓国では、この「朝鮮出兵」の海戦の映画を3本も制作していて本国ではヒットしている。朝鮮の兵士と兜をかぶった日本人が登場して、両艦隊がぶつかり合うのだ。日本でも秀吉側から描いた朝鮮出兵の映画があってもいいと思うのだが。
「将軍 SHOGUN」は1900年に出版された同名の小説が原作になっていて、今作はかなり原作に沿っているらしい。今作で原作の内容は全てやり切ってしまったが、すでにシーズン2とシーズン3の制作が決まっている。プロデューサー真田裕之によれば「もう原作はありませんが、それは脚本家にとって自由を意味します。歴史がある。実際のモデルもいるし、何が起こったかも知っている。」としている。と、頼もしい発言をしている。
「将軍 SHOGUN」に魅せられた人にとっては、夢のような未来が待っているはずだ。
史実を調べていたら鞠子の名前についてわかった事があった。
玉子(本名) → 鞠子(玉=鞠=手鞠歌の鞠)→ レディ・マリア(劇中マルティン・アルヴィト司祭が呼んでいた名前)→ マリア(実際の按針が結婚したとされる夫人の名前(お雪)※史実上夫人の名前の記録はない)。
このつながりは意図した事なのだろうか?
おまけ:16世紀世界の虚実入り混じった出来事
室町時代後期 アシタカが村を襲った祟り神を退治*
1500代年半ば 大魔神現る*
1519年 レオナルド・ダ・ヴィンチ「モナリザ」を完成
1521年 アステカ文明滅亡
1533年 インカ帝国滅亡
1543年 種子島に鉄砲伝来
1549年 戦国時代に自衛隊がタイムスリップ*
1550年 平戸にフランシスコ・ザビエル上陸
1572年 フランスのカトリックがプロテスタントを大量虐殺
1582年 本能寺の変にて織田信長死去
1586年 七人の侍が野武士から村人を守る*
1588年 スペインの無敵艦隊がイギリス艦隊に敗れる
1596年 慶長大地震(M7.5)
1598年 豊臣秀吉死去
1598年 豊臣秀吉の死去により朝鮮出兵撤退
1600年 按針(ウィリアム・アダムス)豊後国に漂着
1600年 関ヶ原の戦い
1603年 豊臣家康が征夷大将軍となる
*フィクション