主人公と同姓同名の元新聞記者だという原作者は寡作で、本作(2019)以降ひとつしか小説を発表していない。鮎川哲也賞を獲った本デビュー作は、加納朋子ら審査員が高く評価したと伝えられるが、ドラマとしては配役で大体犯人が読めてしまう上、後で書くように説明不足が甚だしい。
玉木宏の新聞記者は、前橋支局にいた19年前に市役所の汚職を暴いて東京本社に転属になったが、その記事によって前橋市の出納長は自殺し、その娘(とても38歳に見えない松本若菜が美しすぎる)との同棲生活が破綻、相手は出て行った。今は取締役である当時の上司に勧められて、その経緯を新聞に発表すると、都内で起こった2件の殺人の犯人は自分だとする手紙が新聞社に届く。こうして連続殺人犯と玉木宏の公開書簡が新聞に連載されることとなったが…という話。
配役でいうと、前橋人脈として取締役の渡部篤郎と、当時の群馬警察のキャリアで現警察庁長官官房審議官の甲本雅裕がおり、まずはこの二人の演技がいかにも怪しいのだが、ドラマは大学生の松田元太に、原作にはないことさらに怪しい動きをさせてミスリーディングし、クライマックスでは、初話から登場しているエキセントリックな酒向芳の大学教授に罪を着せる。だが中盤に松田の嫌疑が晴れた時点で、配役的に、犯人はこの人しかいないと誰もが思うはずだ。
中盤、高岡早紀(これも原作にはいない、松田の大学のカウンセラーで、玉木の同窓生という設定)が、松田のことを「昔のあなたに似ている」と言うので、早くも決定的な因縁が察せられてしまうのだが、にもかかわらず、ドラマが完結してもわからないことがたくさんありすぎる。
最大の謎は、19年前に玉木を捨てて失踪した松本若菜は仕事もせずどこで何をしていたかということだ。序盤でさりげなく「失踪してから1年後に死亡が確認された」と曖昧に説明されるだけなのはいかにもおかしい。おまけに、すべてを知った玉木宏がタクシーを飛ばす先は、予想を裏切って松本の墓ではないのだった(普通は松本の墓前に赴くと思う)。松田にも母親への思い入れは皆無。
また、松本の父である出納長は、業者の便宜を図る見返りとして、娘の嫁入り衣裳のための反物を受け取っていたという、本当は悪人ではなかったかのような、鶴女房を思わせる作りものめいた設定にも違和感がある。
犯行の目的は虐待をめぐるものだが、その中からなぜ3人を選んで殺したのかがわからなかったり、被虐待児の名前を呼びながら殺したと言いながら品川駅港南台口での殺人ではそうした描写がなかったり、酒向芳を殺した理由もわからなかったりと、説明不足のまま投げ出された事柄はまだまだあり、せっかく終盤で明かされるタイトルの意味も、わりとどうでもいいと思ってしまうのだった(高岡早紀がすでに中盤で喝破していたから)。
玉木宏の演技は申し分なく、様になっているの一言。役者は全員良い芝居だった。松本若菜は「やんごとなき一族」に始まる快進撃の直前。