東京から北三陸にやってきた高校生・アキが海女になり成長していく姿を描いた物語。
東日本大震災の復興応援として作られ、一大ブームを巻き起こした作品。作中で登場人物たちが口にする方言「じぇじぇじぇ」はその年の流行語にも選ばれた。
クドカン作品は好きだけど、当時は朝ドラの視聴習慣がなくこの度の再放送で初めての観賞。
当時はまだクドカンの作風の毒気が強かった頃と思うので、朝の国民的ドラマの脚本家に起用したのは結構冒険だったんじゃないかと想像する。
本作のヒットを受けて後に東京五輪を盛り上げる大河ドラマ「いだてん」に繋がるのが感慨深い(筆者は同作のファンです)。
観てみたらもう、これはヒットも頷ける内容だった。
通常の朝ドラで週末に掛けて物語が盛り上がるパターンが多いのに対し、常にフルスロットルでスピーディーな展開、どこかヘンテコで愛すべき登場人物たち、不思議な魅力を放つ楽曲の数々、物語の進行と共に明かされていく真相など、どこをとっても面白い。
アキのキャラも良い。
彼女は多くの朝ドラの主人公とは違い夢に向かって一心に邁進するタイプではなく、日々を過ごすうちに道を切り開き、やりたいことも変わっていくキャラクター。それはある意味どれも中途半端ということでもあるけれど、トライ&エラーを繰り返しながら前向きに進んでいくアキは立ち止まっている人の背中を押し、「失敗してもいいし、大成しなくても気にすんな。取り敢えずやってみろ」と言ってくれるのだ。
制作は2013年。朝ドラであるし当時の風潮として絆・仲間といった要素を全面に出す作品も大いにありえたが、いい加減さや駄目なところを抱えた身近にいそうな生の登場人物たちが袖ヶ浜で生き生きと賑やかに過ごす様を描いた作品であったことがとても良かったし、それが本作がヒットした理由のひとつでもあると思う。
ゆるゆると、無理せず自分らしく思うままに。期せずして非日常を長く過ごしてしまった現実の私たちは肩の力を抜けるような作品を求めていた気がしていて、本作はスポッとそこにハマったのではないか(というかそもそもクドカンを起用したのはそれを狙ってのことだろう)。クドカン作品の登場人物に共通してみられるゆるい人物造形がここまで時流と合致したのも奇跡的なように思える。
震災の描写についてはかなりリアリティを抑えたものになっているけれど、震災後2年という時期の制作であることを考えると配慮が行き届いていて、とても楽しげな作風だけど製作陣の真面目で真摯な姿勢を伺える。
出来た傷は簡単には癒えないけれど、それはそれとして今と未来を生きるということをアキたちの姿を通して一貫して見せてくれる本作には強いパワーがある。その力は10年経っても衰えてはいない。
楽しい時間を有難う。観て良かった!