Lily

私の解放日誌のLilyのネタバレレビュー・内容・結末

私の解放日誌(2022年製作のドラマ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

2022年の作品で最も好きなドラマ。
明確に好みは分かれるであろうしこの叙情性の強い演出にいかに感情が寄り添えるかっていう感覚もある。雨粒一つ一つに、それぞれ感情を持たせて、降り注ぐ雫の姿を丁寧に物語るようなドラマだった。

(物語の設定が、山田洋次監督の『遥かなる山の呼び声』を彷彿とさせる。高倉健の寡黙さや、訳アリ設定がソンソック氏の演出した人間性と近いのもあって、松竹の作品を見直してしまった。)

『私の解放日誌』このドラマは大好きだから色々な場面で色々な感想はあるのだけど、印象的なEP13 ...2周した。なんて展開なんだって。オンマが"解放"される時、自身を飯炊き女と卑下してこれまでの不満と辛さを発露したオンマ。一生懸命、家族の為だけに人生を生きてきた。そして家父長制度からの解放がこんな事でもないと解放されなかった事に涙が止まらない。オンマのすいとん屋でのあの輝かしいまでの笑顔見て不吉な予感がよぎった。だってこれまでにあんなにも嬉しそうなオンマの笑顔出てこなかったし後ろ姿や疲れた姿でいたけど、こんな光るような笑顔をする人だったんだ!って感じたよね。すごく嬉しくてたまらないって笑顔でさ、娘とその恋人のために勝手にチヂミ頼んじゃったりしてそういうこと頼んでもいないのに勝手にしちゃうのとか本当母親なんだよね。

あと『さつまいもの茎』が物語の中で大きな繋がりとなっていたのも素晴らしい演出だった。酒浸りのク氏が、いきつけのBARで出てきた定食にさつまいものナムルがあってミジョンとヨム家族の生活を思い出すシーンとか、別のシーンでは、都会から来たさつまいも掘りグラマー(インスタグラマー)に「隣のさつまいもは小さいよねえ〜」なんて、マウンティグされてたけど、あれはオンマがク氏がさつまいものナムルを良く食べてたから、好きだと思って茎を収穫していて、だからさつまいもの肥立がそこまでよくならなかったんだよね。

そしてク氏がヨム家にようやく3年ぶりに帰った時、そこにはあの時の生活はなくなっていた。ザルに乾いたさつまいもの茎が部屋の隅に積まれたまま、オンマがナムルにしようとしていたけどそのままになっていて、誰も作らないけど誰も捨てることも出来ない——

ク氏を帰郷させたオンマの愛情がここで生きて2人を再会させるんよ。オンマの愛とやるせない喪失の悲しさ。さつまいもの茎を繋がりにする演出って誰が思いつくかね。誰が理解できるかね。アジア人特有の情緒だよね。日常生活の中にある些細な事柄や、口にするものがいかに心の糧となっていて大切か。そういう細かいことをドラマの演出でやっちゃうって信じられないぐらい観てる側を信用してる演出で、本当丁寧に『ここに生きている人達の繋がりとそこから生まれるドラマを伝えたい』と表示してくれた作品だと思う。尊くて崇めたくなるよ。ありがとう。みんな一生懸命生きよう。
Lily

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