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エルピス—希望、あるいは災い—のHrtのレビュー・感想・評価

4.5
1つの冤罪事件から権力の濫用が明るみになっていく、大筋はこういったプロットだがそこにメディア、警察、政界の権力構造とそれに伴う人間関係が映し出される様子がこの手のドラマに描くべき不可欠な要素として機能している。
イデオロギーとしての左右対立ではなく、あくまでこの社会の構造がどういうカタチを取っているかに注視しているのが良い。
なぜならこの国には不正を暴いたところでもはやまともに言葉を話せる政治家がいないからだ。
それぞれ違う人物にも関わらず誰かに書いてもらった原稿をその通りに読み、質問は形式的なものでしかなく、我々の「誤解を招く」言行動を形式的に弁解する。
どうしようもなくなった政治家が今日ものうのうと生き延びているのは、我々市井の人々ものうのうと日々を過ごしているという原因がある。
そのおかげで斎藤正一の虚飾に塗れた言葉はとても魅力的に響き、浅川恵那の意志の揺れ動きを引き起こす。
正直に言うと斎藤はトキシック・マスキュリニティの権化であり、彼が発する言葉は一言一句旧態依然とした倫理観に基づいている。
彼の台詞がSNSで拡散された状況を見て自分は全てを悟った。
どれほど政治的妥当性を持とうとも国民単位では刷り込まれた意識、つまり理想とする虚構の人物像をどうしても崇めてしまう傾向にある。
おそらく大門もそのことを理解しているから斎藤をそばに置きたがった。村井の言う「才能」の正体だ。
残念ながら浅川の斎藤に対する切なる願いは叶うことなく、というかそもそも付き合ってた頃から彼は「あっち側」の人間だったのだ。
こうした政治とトキシック・マスキュリニティの癒着、そしてそれに無意識に惹かれてしまう人間の本能を視聴者の目を通して描くというとんでもない偉業をこのドラマは完璧に成し遂げてしまっている。
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