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フェンスのYMのネタバレレビュー・内容・結末

フェンス(2023年製作のドラマ)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

一気に引き込まれた。野木亜希子の脚本もさることながら、松岡茉優。松岡茉優には、松岡茉優にしか出せない空気感(それは、役そのもののようでもあり、演じているのではなくて素のままに振る舞っているようでもある、境界線の見えない演技)があり、この役にはそれが遺憾無く発揮されていた。

地上波では扱えぬ(と思われていることそのものが"変"なのだが)「日米地位協定」や「基地問題」「本土と沖縄」といった社会問題をメインテーマと扱いながら、しかし同時に、おなじ熱量で登場人物の過去も掘り下げ真相を追うミステリー・ドラマにもバランスを保ったまま仕立て上げているのは、エンタメドラマ脚本家としての野木亜希子の力量ゆえである。

おなじく野木の『MIU404』では、ベトナム人移民と技能実習生の問題が扱われていたが、私は放送当時、もちろん話題のドラマで社会問題を扱うことの意義は感じつつも、他の回と較べたときのミステリーとしてのカタルシス=物語そのものの強度が低いことにいささか不満をおぼえたことを記憶している。
それは、いささか教条的に思えて物足りなかったというのが理由だが、なぜそう思ったのかといえば、それは「ニュースで見たような問題」そのものがその回の事件の骨子だったからだと私は思う(だから、逆にいえば、ベトナム移民に対する問題を知らない人にとっては描かれたことが実在すると知れば衝撃だったろうし、それは意義深いことだ)。

だが今回は先に述べたとおり、メインは「レイプ事件の真相を追う記者(=探偵)と被害を訴えた女性」のバディ・ミステリーで、それを追ううちに彼女たちのまえに超特大の社会問題が不可避のものとして立ち現れる、という図式である。しかも終盤から脚本が熱を入れるのは、相棒と喧嘩別れをしたのち、精神科医(新垣結衣)に助けられながら過去を見つめ直し、過去と和解を試み魂を再生させる松岡茉優の姿である。母親と電話をする最終回のシーンは胸を打つ。

そして、事件を追う登場人物たちは圧倒的なクライマックスへと突入していく。海兵隊員の被疑者の上官に迫る青木崇高の見せ場のアツさや、宮本エリアナが直面する危機的状況の緊張感は、自身もドラマ好きを公言するエンターテイメント脚本家だから書けるシーンのように思えてならない。そしてそれらのエンターテイメント要素がなりたつための前提条件として、沖縄がもつ「地続きの」問題が提示されている。これは類まれなバランス感覚と的確な問題意識がなせる技だと私は思う。
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