『罪と罰』へのオマージュでしょうか。
ペーパーバックが何度か登場するし物語の展開も合わせると、そう考えるのが自然ですよね。
視聴後、「良い目的のためならば小さな悪事は許される。選ばれた者は法律を超える資格を持つ」という選民思想を持ったラスコリーニコフは、この物語ではターミネーターみたいな爺殺人者=ソン・チョンかもしれないと思うようになりました。
「ひとり殺せば犯罪者だが100万人殺すと英雄になる」とは「チャップリンの殺人狂時代」で語られる超有名な言葉です。
それくらい「善と悪」「正義と不義」の狭間は曖昧で矛盾を孕んだグレーゾーンなわけです。
ラスコリーニコフは最後には愛を知って人間回帰の道を歩み始めるけど、突っ走ったらソン・チョンそのものですね。
対比として登場する、謙虚で希有な能力?を持つ殺人者が、チェ・ウシク演じる主人公=平凡な大学生=イ・タン。
登場順は逆ですが。
個人的な感想だと、ソン・チョンはただの快楽殺人者に過ぎません。ラスコリーニコフは放っておいたらこうなったでしょう。
不思議な能力を持った殺人者=イ・タンは、主体性がなくオロオロするばかりで前半はずっとそんな調子です。
ただし、少し肝の据わった後半でも、罪の重さに押しつぶされそうにもなるし、自首しようともするのでソン・チョンとはまったく違います。
イ・タンの能力はおもしろいですよね。
現場に凶器を忘れてもベタベタ指紋を残しても、わざと食べかけの果物を残しても、凶器は偶然が重なって見つからないし指紋は犬が全部舐めて消しちゃうし食べかけの果物に至ってはもの凄い力業で、全然捕まらない。
二つ目の能力は、悪人がわかっちゃうこと。首筋に鳥肌が立つわけです。彼とソン・チョンを分ける一線を象徴するのがこの能力です。
すれ違いざま首筋に鳥肌がたっても安易に行動しない。
イ・タンの能力が炸裂する前半から釘付けでした。
後半になると別の物語のようになって、ちょっと肩すかしをくらったような気分にもなりましたが。
イ・タンを演じたチェ・ウシク、後半は別人でしたね。
眉毛を剃っただけではないような陰影濃い風貌で凄味すらありました。
刑事役のソン・ソックは、こういう役がホントに良いですね。
すごい発想の見たことも聞いたこともない犯罪物語でした。
観念的でスタイリッシュに心理を描写した映像も印象的です。
最後『罪と罰』は火事になった廃工場と共に燃えてしまいます。
どこか危険なメッセージのようにも感じましたが、どうなんでしょうね。