夜の東京を走る一台のタクシー。ハンドルを握るのは、29歳のタクシードライバー・ 蘭象子(古川琴音)。取り立ててじょう舌でもなく、特別な気配りができるわけでもない。けれどなぜか彼女のタクシーに乗った人はみな、後になってその夜の風景を思い出してしまう――そんな、不思議な空気をまとった女性だ。 タワマンに向かう恋人同士は、出たカードの数字だけで愛を語る“字数制限の恋”。 誕生日の偶然に胸を焦がす二人の女性は、うそにまみれた本音の行き場を探しながら、あめ玉の時間にだけ許される“うその告白”で距離を詰めていく。 四十年ぶりに父に会おうとする母と、その背中を追う息子は、父が駆る石焼き芋の車を追いながら、言えなかったひと言の重さと向き合う。 象子はそのどれにも踏み込みすぎない。ただ、バックミラー越しに少しだけ心を寄せ、時に焼き芋を割り、時にそっとうそをつく。 そして、人の人生の“通過点”にいるだけのつもりが、いつのまにか彼女自身も30歳という節目に向かって、自分の探しものを探し始める。果たして彼女の探しものは何なのか――。 東京の夜を、そっと走り抜けるタクシーの小さな明かり。そこに乗った人たちの言葉はまだ続きの途中で、象子の30歳までのカウントダウンもまた、どこかで静かに進んでいく。