Morohashi

白い巨塔のMorohashiのレビュー・感想・評価

白い巨塔(2003年製作のドラマ)
5.0
間違いなく、スケール・演技・表現ともに日本ドラマの金字塔といえる作品。

○対照的な主人公2人
個の先生や患者を大切にする里見先生(江口洋介)と、全体を動かすことに興味がある財前先生(唐沢寿明)。

普通に見ると、平気で他人を貶め、蹴落とし、足台にしてしまう財前先生に感情移入したり、共感したりすることはとても難しいけれど、最後まで見ると実はどちらも正義であり、どちらにもメリット・デメリットがあるっていうことに気づく。
ただ、悲しいかな、財前先生は損得でしか動かないから、周りに集まる人達もまた損得で動く人ばかり。
もし彼が定年まで勤め上げていたら、老後はめちゃくちゃ孤独だったろうなと思う。

それにしても、お金は人の気持ちを狂わせる。
「一人で落ちるのは怖い。怖くて誰かの腕をつかんでしまうかもしれません」というセリフは名言。



○医療の未来
このドラマは大きく、医療ドラマ・教授戦・裁判戦というフェーズに分かれている。
この3つに共通して言えるのは、おそらく大学病院というものはガチガチのしがらみと、簡単には変わらない組織の姿。
これは大学病院が結果として作り上げた構造であり、ここから生み出される成果もまた未来なのだろう。
どんなものにもリスクはある。
理論上完璧であったとしても。環境の数え切れない要素や、気まぐれな人の心のせいで完璧性は簡単にゆらぐ。
まずはこのことを認識していれば、財前先生も窮地に陥ることはなかったし、大学病院の姿もまた違ったものになっていただろう。
ワルシャワの収容所の線路の上で見た、行っても戻っても地獄の構図は、まさに財前先生が嵌ってしまった状況を表していたのだと思う。


○教授というポスト
ところで、財前先生があれほどまでにこだわっていた教授というポスト、もちろん利権とかいろいろあると思うけれど、財前先生は教授となった先にどんな未来を見ていたのか。
あるいは、果てしない欲望に突き動かされるがままに、果てしなく上を目指していただけなのだろうか。

かと思えば、大河原教授はそういう欲望の匂いがほとんどしない。彼はどうやって教授になったのか。
そしておそらく財前先生の一番の天敵は里見先生。彼は欲望になびく要素が一切なかったからこそ、財前先生が一番嫌がった相手だったと思う。
それでも、結局最後の最後に財前先生が頼った相手が里見先生というのはとても皮肉というか、必然というか。
彼はきっと、もっとクリーンな理想をもっていたんだと思う。

では、ああやって権力の中で保身に走らないようにするにはどうしたらよかったのか。
やっぱりそれは、誰かに貢献すること、誰かの役にたつことを第一義に捉えていればよかったんだと思う。
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