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THIS IS US/ディス・イズ・アス 36歳、これからの郵便機のレビュー・感想・評価

5.0
過去と現在を折り重ねることで、実は人生って過去の延長に現在があるのではなく、過去と現在は独立し、けれども合わせ鏡のような構図にあって、そこから新たな人生の意味合いが見えてくるという、稀有(けう)のドラマ。

‐過去と現在を巧妙に共存させた脚本が秀逸

こういう書き方すると多次元宇宙のSF映画みたいだが、このドラマは登場人物らの過去と現在を同時に描きながら進むスタイルをとっている。

現在がなぜそうなっているかの理由や原因を過去の映像で説明することはよくあるが、その際”10年前”とか年数経過がわかるようテロップを流すのが普通。

ところが、本作はそれを出さない。

基本的に登場人物らの人生ドラマなので、彼らの風貌の変化でおおよその検討はつくから、正確に何年前とか表示しなくとも物語のスジは特に混乱しない。

しかし、それは2話目以降の話し。

実は1話では、最後の最後まで観てる側には、時系列をくずしていたとは気づかせない仕掛けになっている。

これが実に巧妙で、ラストはほんとに驚いた。

「ああ、そういうことだったんだ!」

そして、今度は2話目。

2話目を観終わると、登場人物のある一人の(重要なキーマン)の行く末が常に頭の片隅をよぎることになる。

「ええ??ということは?・・・あの人。。。」

終わりの始まりを感じながら、3話目以降をみていくことになる。

連続ドラマで次回がみたくなるような終わり方をする手法を「クリフハンガー」というそうだが、この作品はほんとに”クリフハンガー”が上手く、話の最後に持ってくるシーンで思わず驚くこともしばしば。

過去と現在を行ったり来たりというよりは、過去と現在を切り取った物語が並行して進む。

過去にはさまざまな過去があり、それぞれの登場人物はそれぞれの時期にそれぞれのドラマを持っている。

彼らの過去が後の未来の”誰か”に影響し、直接なり間接なり”何か”の遠因となり、つながっている。

三谷幸喜がこのドラマを高く評価し推していたが、確かにプロも唸らせるプロットが秀逸。

‐配信各話のおまけに出演者らの振り返りの会がある

各話のエンドロールの後、ドラマの演者からランダムに数人が抽出され、そこに制作サイドから1名加わり、ソファやダイニングテーブルを囲んで、本ドラマのスジやシークエンスについて、それぞれの解釈なり演劇論的な意見なりを述べあう、振り返りの会が付属している。

役者それぞれのこのドラマに対する思い入れがしっかりと述べられていて興味深い。

特に最終話(18話)では、舞台にほぼキャスト全員が勢ぞろいし、「アクセス・ハリウッド」というあちらの有名なエンターテイメントニュースショーがあるらしく、その番組のコーナー的な扱いなのか、番組アンカーと女優の2人が回し役になり、役者にインタビューをおこなう。

それをみて面白いと思ったのは脚本家2人の座る場所。

普通、裏方だから日本でいうところの”下座”に座るのかと思っていたが、進行役の隣に座っていたのが印象的。

そういえば、前に佐藤浩市のインタビューで、友人の真田広之が米国ドラマ収録の演技の後、いちスタッフから「あなたの今の演技は良かった」と褒められたことがあるというエピソードがあった。
真田いわく、「それが米国ドラマ制作の魅力なんだ」と。

確かに日本であのクラスの役者にいちスタッフが演技に対して声をかけることなんてできないだろう。

米国では、脚本家やスタッフの位置づけは役者と対等でフェアなんだろう。

‐シーズン1所感

前述の通り、1話目の最後でビックリするので、本作未見の方へのすすめ方としては、
「とにかく第1話、最後までみて欲しい」

騙されたというと語弊があるが、まずはとにかく1話を最後までみてもらいたいと言いたくなる。

シーズン1の放映開始は2016年。
足掛け6年、シーズン6まで進んだ連続人気ドラマ。

自称海外ドラマ好きなので、本作の評価を小耳にはさんではいたのだけど、ジャケットから漂うイメージが「よくある群像ラブコメディ」のたぐいかと勝手にたかをくくってしまっていて”ジャケスル”ーしていた。

そして、ようやくシーズン1、18話をイッキ見。

本作を観ると、

「過去の延長に現在がある」

「過去の結果として現在がある」

という捉え方は、そうとは限らないのではないか?と思えてくる。

本作の登場人物らはみんな、過去と向き合うことで、現在と向き合うための勇気を得ようともがく。

考えてみれば、過去の今は過去の現在であって、今の現在ではない(言い方ややこしい笑)

言いたいことはつまり、過去の自分は未来の自分を意識しながら生きていたわけではない。

過去の延長とか過去の結果とか、それは現在からみるからそう言えるのであって、過去のその時には、自分の言動が将来の何に影響するかなんて考えもしていない。

過去は過去なりの過去進行形で進み、現在は現在なりの現在進行形で進む。

そうやって人はいろんな”今”を生きてる。

過去は今につながってはいるが、その人生の物語は独立している。

そしてそれは合わせ鏡のように表裏一体でありながら、意図的に重ねることで別の意味をもって我々に迫ってくる。

THIS IS USはそういう人生の考え方のヒントとなるドラマだ。


あとがき)
36歳は四捨五入すれば40歳の立派な中年ですが、六捨七入だと30歳なので中年ではありません(笑)

自分の36歳の頃って、ほとんど記憶に無いのですが、いろいろ考えてた時期のような気もします。

この”中年”でもなければ”青年”でもない、ある意味”中途半端な年齢”は、”第二の思春期”ともいうべきもので、過去と現在のはざまで揺れ動く、実にこのドラマのテーマに適切な年齢のチョイスなのかもしれません。

それと、THIS IS US シーズン1のレビューを書いて思ったのですが、連続ドラマって、話を追う毎に登場人物らの関係性が都度変わったりするし、シーズンを重ねた人気作はシーズンによって大きな転換があったりしますよね。

そういった作品の全体を俯瞰してレビューすると、各話の起伏が薄まるような気がして、できれば、放映と同時期で話数毎に「ひぇ~」とか「きゃぁ~」とか(笑)の感想を述べるほうが楽しいかなぁと思いました。

シーズン2以降がこれから楽しみですが、今後はFilmarksのスマホからのみ利用できるドラマのコメント機能を使い、話数毎にコメントしていきたいと思います(パソコン版でも使えるよう、バージョンアップをぜひ希望!)

今回、話数ごとにメモしながらそう思ったしだいです。
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