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第一容疑者のmegurosのレビュー・感想・評価

第一容疑者(1991年製作のドラマ)
4.2
ヘレン・ミレン演じるジェーン・テニスンが立ち向かう事件はどれも一筋縄ではいかないものばかりだが、彼女の失敗を望む警察内部の男たちや男性優位な警察機構との対決をも描いた作品。度重なる妨害や圧力にも屈しず、狂気にも似た正義への執念によってひたすらに真実へと迫っていく中で、個人としては仕事と私生活との両立に苦しみながら、時に法が届かない悪にまで対峙していく。英国が生んだ世界に燦然と輝く傑作警察ドラマシリーズ。

1991年のSeries.1「連鎖」は女性6人の連続殺人を追う。シリーズ屈指の曲者容疑者マーラーが登場する傑作回だが、組織内に巣食う偏見や性差別意識、そしてテニスン(+他の女性警官たち)もが晒されるSexismがテーマに。続く1992年のSeries.2「顔のない少女」は黒人居住地域で白骨死体が発見される事件で、警察暴力が問題になっている社会背景なども織り込みながらRacismをテーマとしている。

1993年のSeries.3は少年買春(そして警察幹部の関与・隠蔽)がテーマだが、この頃になると職場でも徐々に女性が増えてくる。S1で女性蔑視が酷いために捜査を外されていたTom Bell演じるオトリーが復活し、癖のあるキャラを全開にして活躍。

1995年のS4は1話90分3回の形式で進行。S4E1「消えた幼児」は小児性愛及び母親の育児放棄・虐待がテーマ。S4E2「死のゲーム」はテニスンvs女弁護士というハイキャリアの女性の闘いを(あるいは母と娘という女同士の関係性を)描く。そしてS4E3「死者の香水(The Scent of Darkness)」はS1の続編で、模倣殺人がテーマ。個人的にはS1とこのS4E3の連作がシリーズ最高傑作だと思う。社会に蔓延する女性蔑視・敵視の空気、それが会話の節々から伝わってくる見事な脚本、保身上司だったはずのマイク・カーナンが見せる包容力と誠実さ、そしてハスキンズの熱意、犯人の狂気も際立ち、本当にマーロウは真犯人だったのか警察内部でも意見が割れていく展開も見事。ラストのワインを引っ掛けるシーンもぜひ見て欲しい。

96年S5「裁かれるべき者(Errors of Judgement」はマンチェスターを舞台にした銃犯罪を扱う。警察と悪党とが手を組むことで犯罪を封じ込め「法と秩序」を守る、その悲劇を描く。

2003年のS6「姿なき犯人(The Last Witness)」ではボスニア紛争とイギリスの移民問題も下敷きにしながら、警察機構に情報アセットとして守られた犯罪者に対峙。勤続30年を迎えキャリアも晩年に差し掛かったテニスンにとっても警察機構上層部からの圧力は過去MAXレベルで、正義と公正な裁きを万人に願うその執念や狂気が最も強く発揮されている。洒落物で目立ちたがり屋に見えた部下のサイモンが意外に良いキャラで好感が持てる。

そして最終回、2006年のS7「希望のかけら(The Final Act)」では、引退間近のテニスンがアルコール依存症に苦しんでいる所からスタート。14歳の少女の死体が妊娠していたためその親をDNA鑑定で探していく事件だが、断酒会に通ったり、断酒会で久々に出会ったオトリー(演じるTom Bellは同年没)が事件に巻き込まれ殉職したり、父親が病気で亡くなったり、妹とは喧嘩したりで、事件そのものよりもプライベートの描写が多い。組織に多大なる貢献を果たしたテニスンは引退パーティーに参加せず一人帰るのだが、パーティーと言えばシリーズ初回のマーロー自供を祝うパーティーであって、その差を思うだにただ切なくなる。

これだけのロングシリーズなので、後に有名になる英国人俳優も多数出演していて、S1には若き日のレイフ・ファインズが端役で出演。S3ではマーク・ストロングが当時30歳ながら既に禿げてて威厳があってカッコいいわけだが、S6ではしっかり出世してテニスンの上司となり戻ってくる。同じくS6にはGoTRのサー・ダヴォス(Liam Cunnigham)もイケメン役カメラマン役で登場する。

テニスンは上昇志向をとびきり強く抱いているものの、間違ってる上司の指示は即座に無視する。その点では出世よりも真実や事件の解決を求める刑事であり、周囲の男性たちの尻を叩いて指導する点で時に母親のようでもあり、酒に溺れたりガードがゆるく男に騙される点ではとても人間的。気迫に溢れていながらお洒落でお茶目なキャラクターで、ヘレン・ミレンの魅力が炸裂している。
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