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宮沢賢治の食卓のMKのレビュー・感想・評価

宮沢賢治の食卓(2017年製作のドラマ)
3.8
銀河鉄道の父が公開寸前なので予習しておこうと思って鑑賞。
タイトルから美味しいご飯を通じた楽しげな物語かと思ったら、教師としての宮沢賢治と石橋杏奈ちゃん演じる銀河鉄道の妹との絆を描いたような作品だった。

永訣の朝を綴った最終話はなんとも悲しくて優しくて泣けてしまった。。

志半ば、幸せというものを享受することなく逝ってまう妹、良くも悪くも人や物事に対する洞察力と想像力がとてつもないのだなと感じた。

たくさんの作品を読んではいないし人物も印象による部分が大きいけどやっぱり素敵な人だなと思った。

永訣の朝も改めて読む機会にもなった、クラムボンの歌も好きだけどとっても良い作品。


永訣の朝

けふのうちに
とほくへいつてしまふ
わたくしのいもうとよ
みぞれがふつて
おもてはへんにあかるいのだ

あめゆじゆとてちてけんじや

うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる

青い蓴菜のもやうのついた
これらふたつのかけた陶椀に

おまへがたべるあめゆきをとらうとして
わたくしはまがつた鉄砲玉のやうに
このくらいみぞれのなかに飛びだした

蒼鉛いろの暗い雲から
みぞれはびちよびちよ沈んでくる

ああとし子
死ぬといふいまごろになつて
わたくしをいつしやうあかるくするために
こんなさつぱりした雪のひとわんを
おまへはわたくしにたのんだのだ

ありがたうわたくしのけなげないもうとよ
わたくしもまつすぐにすすんでいくから

はげしいはげしい熱やあへぎのあひだから
おまへはわたくしにたのんだのだ

銀河や太陽気圏などとよばれたせかいの
そらからおちた雪のさいごのひとわんを

ふたきれのみかげせきざいに
みぞれはさびしくたまつてゐる
わたくしはそのうへにあぶなくたち
雪と水とのまつしろな二相系をたもち

すきとほるつめたい雫にみちた
このつややかな松のえだから
わたくしのやさしいいもうとの
さいごのたべものをもらつていかう

わたしたちが
いつしよににそだつてきたあひだ
みなれたちやわんのこの藍のもやうにも
もうけふおまへはわかれてしまふ

Ora Orade Shitori egumo

ほんたうにけふおまへはわかれてしまふ

あああのとざされた病室の
くらいびやうぶやかやのなかに
やさしくあをじろく燃えてゐる
わたくしのけなげないもうとよ

この雪はどこをえらばうにも
あんまりどこもまつしろなのだ
あんなおそろしいみだれたそらから
このうつくしい雪がきたのだ

うまれでくるたて
こんどはこたにわりやのごとばかりで
くるしまなあよにうまれてくる

おまへがたべるこのふたわんのゆきに
わたくしはいまこころからいのる
どうかこれが
天上のアイスクリームになつて
おまへとみんなとに
聖い資糧をもたらすやうに
わたくしの
すべてのさいはひをかけてねがふ



けふのうちに とほくへいってしまふ わたくしのいもうとよ
みぞれがふって 
おもてはへんにあかるいのだ

あめゆじゅ とてちてけんじゃ

うすあかくいっさう陰惨んな雲から
みぞれは びちょびちょ ふってくる

(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

青い蓴菜(じゅんさい)の もやうのついた
これら ふたつの かけた 陶椀に
おまへが たべる あめゆきを とらうとして
わたくしは まがった てっぽうだまのやうに
この くらい みぞれのなかに 飛びだした
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

蒼鉛(そうえん)いろの 暗い雲から
みぞれは びちょびちょ 沈んでくる
ああ とし子
死ぬといふ いまごろになって
わたくしを いっしゃう あかるく するために
こんな さっぱりした 雪のひとわんを
おまへは わたくしに たのんだのだ
ありがたう わたくしの けなげな いもうとよ
わたくしも まっすぐに すすんでいくから
(あめゆじゅ とてちて けんじゃ)

はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから
おまへは わたくしに たのんだのだ

銀河や 太陽、気圏(きけん)などと よばれたせかいの
そらから おちた 雪の さいごの ひとわんを……

…ふたきれの みかげせきざいに
みぞれは さびしく たまってゐる

わたくしは そのうへに あぶなくたち
雪と 水との まっしろな 二相系をたもち
すきとほる つめたい雫に みちた
このつややかな 松のえだから
わたくしの やさしい いもうとの
さいごの たべものを もらっていかう

わたしたちが いっしょに そだってきた あひだ
みなれた ちやわんの この 藍のもやうにも
もう けふ おまへは わかれてしまふ
(Ora Orade Shitori egumo)

ほんたうに けふ おまへは わかれてしまふ

ああ あの とざされた 病室の
くらい びゃうぶや かやの なかに
やさしく あをじろく 燃えてゐる
わたくしの けなげな いもうとよ

この雪は どこを えらばうにも
あんまり どこも まっしろなのだ
あんな おそろしい みだれた そらから
この うつくしい 雪が きたのだ

(うまれで くるたて
  こんどは こたに わりやの ごとばかりで
   くるしまなあよに うまれてくる)

おまへが たべる この ふたわんの ゆきに
わたくしは いま こころから いのる
どうか これが兜率(とそつ)の 天の食(じき)に 変わって
やがては おまへとみんなとに 聖い資糧を もたらすことを
わたくしの すべての さいはひを かけて ねがふ
MK

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