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母性のsomaddesignのレビュー・感想・評価

母性(2022年製作の映画)
5.0
湊かなえの同名小説を映画化。“娘を愛せない母”と“母に愛されたい娘”…それぞれの視点から各々の人生や母娘の関わりを振り返り、やがてある真実に辿り着くのだが……。

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原作未読。叙述トリック風味もあるので、原作だとどんな感じか気になる。
よく言われる「女性は10月10日を経て母親になる」の反転みたいな内容で、自覚持てないまま母親になってしまった女性を中心に、幾つもの母性が絡まり合う話。

登場人物全員被害者ヅラなのが面白い。ホントに被害者と思える人もいるけど、少なくともあの人とこの人が賢しらに被害者ぶってるのが「ちょ待てよ」案件。母娘関係の違和感に気づいていながら、何の問題解決もしないで逃げてばかり。少しはなんとか努力するふりくらいせーよと。(描かれないだけで、悪戦苦闘あったのかもしれないけど)

のっけから非対称な画面構成が続いたり、シンボリックな絵作りが印象的。
水田と野原でパッキリ分かれた画面の先に木に覆われた屋敷が現れたり、窓やカーテンの開き具合がそのまま母娘の心の開放度のグラデに見えて、緻密な心象描写が延々。
とかく誰かの眷属か付属品のように扱われがちな存在が、自分の名前を取り戻すシーンが熱かった。そしてその名前呼ぶ人が誰であったかもまた感慨深い。

戸田恵梨香が10代から50代(くらい?)までの幅広い年齢層で、かつ見え方によって弱々しいお嬢様にも、冷淡で狂気じみた人物にも見える多面的なキャラクターを熱演。見えないものに縋りつくような佇まいが痛々しく、ともすればモンスターに見えそうな役柄を、血の通った同情すべき人間に見せてるのは彼女の好演のおかげかも。形は違えど、昨今話題の宗教二世問題も連想しちゃった。

永野芽郁の自身の明るくも陰のある佇まいもまた良かった。いつまでも満たされない心に振り回されつつも、徐々に自分を見つけていく様。ルミ子の波乱の人生に巻き込まれつつも、怨嗟に囚われずに済んだのは華恵のおかげなのかもしれない。

なんといっても今作のMVPは高畑淳子でわ。子供溺愛っぷりがどうしたってあの不祥事を連想しちゃって、現実を反映したキャスティングに思える。
でもってあの食事シーン。感じ悪さが滲み出る、作った人への感謝や労いが皆無で、放り込むように口に運んで、口に入れたまま悪態をつく。彼女の人柄やルミ子との関係性が滲む名シーン。
終わってみれば、子供以外に生きる意義がなかった人にも見え、ついつい過保護すぎるくらいに子供を溺愛しちゃう人で、ルミ子の反転のような存在なのが分かる。(転じて華恵の対関係でもある)


余談)
それにしてもつい最近まで「ハコヅメ」で同僚役だった戸田恵梨香と永野芽郁の二人が、母娘役で共演してるって…。改めて役者さんてスゲーなと感心するけど、「ハコヅメ」が脳裏に浮かんでしまってシリアスな気持ちになりきれない瞬間もあった。完全に自分のせいだ。


72本目
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