ぐり

母性のぐりのネタバレレビュー・内容・結末

母性(2022年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

"母の愛が、私を壊した"

母と娘。女性はこの2種類に分類されるという。子を産んで、娘から母になる人もいれば、娘のままでいる人もいる。その中で、母性はいつどのタイミングで芽生えるのだろう。母性は本当に、最初から備わっている本能的性質なのだろうか。母性とは、一体何なんだろうか。

私は主観的に母性を知らない。子を持つ親ではないし、子を産んで母になりたいという願望も今は特にないから。でも、客観的になら知っている。母の持つ母性を1番に享受している"娘"だから。先日母が本作を観たらしく、「面白かったから観て!」と電話で言われました。いつも私の勧める映画は観ないくせに(笑)と思いつつ鑑賞。せっかくなので、私の母のことにも触れながら感想を書こうと思います。

本作を観たあと最初に思ったのは、私は母がルミ子のような"娘"である瞬間を見たことがあるか?ということでした。言い換えるなら、ルミ子が母といるときの"娘"らしい雰囲気に、私はとても違和感を覚えました。確かに私の母も、祖母(母の母)といるときは娘として振る舞っています。ただ、自分のことを「母から母性を享受する娘」や「母に認められたり喜んでもらったりすることで、幸せになれる娘」とは思っていなそうで、さらにその先の「祖母となった母を認めた娘」のような雰囲気なんですよ。わかりにくいので流してもらって大丈夫です(笑)何にせよ、私の母とルミ子は全く違う"母"であり、"娘"でした。

母としてのルミ子のことは否定したくない。人の子育てに何も知らない第三者が文句を言うことはご法度だと思っているから。ただ、彼女は自分の軸としてあるものが自分自身ではなく、母だった。母親第一主義だった。そして、自分の子(娘)は母に喜んでもらうことで初めて存在価値が生まれているようだった。これがとても違和感がありました。だけど同時に、彼女の母に対する想いは、おそらく誰しも共感できる部分があるように感じました(これはまた後ほど)。彼女は、母への執着が限度を超えていたと思います。

彼女は自身の価値観として形成された「母の喜びは私の喜び」を、娘にも強要していたよね。娘は年上を敬うことのできる素敵な女の子へと成長していったものの、母からの"母性"を娘視点で見たら、怖くて仕方なかった。次第に娘は母や年上の人の目を伺うような子になってしまった。おそらくそれは、娘には母しかいないから。母がそうだったように、母が娘のすべてだったから。大好きな母が亡くなったあとの、ルミ子の義母に対する"認められたいという気持ち"は、第三者から見ても異常でした。

(先に言っておきますが、ここではあえて私の"父"の存在には触れていません。)私の母は、嫁入りしてすぐ父の実家に住み始めました。他人の家で、他人の親と一緒に住みながら、子育てをする。昔はそれが当たり前だったから、感覚として備わっていない人もいるかもしれないけど、今はこの結婚のスタイルに違和感や嫌悪感を持つ人が大勢いる。私もそう。なぜなら母を見てきたから。流石にあの最低な義母のような存在はいないけど、母は今も祖父母たちと暮らしている。実の親よりも長い時間一緒にいる。苦労や愚痴は耐えない。その生活を当たり前に強いられてきた。それでも母は、今も変わらない生活を続けている。ただ娘のために。私たち姉妹だけのために。

だから私は、娘の気持ちが痛いほどわかる。あんなの全部義母が悪いのに。「ありがとう」も言われない。「美味しい」とも言われない。あんなにママは毎日頑張ってるのに、それを一切認めてくれない義母が悪いに決まってる。このままだと、大好きなママが壊れてしまう。たった1人しかいない母。私を育ててくれたのは母だ。だから「老人ホームに入れよう」と提案したのに。母を守ろうとしただけなのに。その先にあったのは、ママからの拒絶であった。

ただ私は、ルミ子の異常性を理解しつつも、彼女の母に対する気持ちが痛いほどわかってしまった。大嵐の日、タンスに母と娘が下敷きになって、どちらかしか助けられないとしたら、あなたはどちらを選びますか?母(自分)は娘を助けるのが当たり前?それはある意味綺麗事だよ。だって、「子供なんてまた作ればいい」のだから。そう言ったルミ子の気持ちが、わかってしまった。そう。極論そうなんだよ。だって、大好きな母は世界にたった1人しかいないのだから。だから母が自ら命を絶つ選択をしたとき、思わず泣いてしまった。これは、母に大切に育てられた子なら、誰もが共感できる部分なのではないだろうか。

歪んだ"母性"の形。歪みきってて、とても良かった。こんなに面白い映画久しぶりに観たな〜!母と娘では視点が全く違うことを見せつけられてめっちゃ面白かったです。文学的な台詞や、レトロなお家の雰囲気も好きでした。特に最高だったのは"名前"のシーンだよね。でも触れられる前に私は気づいてました(笑)ちゃんと名前を呼んで育てられたから。そのとき既にラスト15分だったし、"知らない名前"って表現も良すぎて鳥肌立ちました。清佳が多少なりとも救われるラストには、どこかホッとしましたね。

ルミ子が自身の子を「生き物」と表現していたのも良かったな〜。まだわからないけど、私も1度は思っちゃうかも。だって自分の体内に生命が宿るなんて、意味わかんないもん(笑)それなのに、どうしてそこから簡単に母性が芽生えると誰もが思ってしまうんだろう?

役者の演技は本当に最高だった…!特に義母、ヤバかった(笑)発声の仕方と声量が本物すぎてめっちゃストレス溜まりました。個人的最優秀助演女優賞です。ルミ子役の戸田恵梨香は、母を愛する優しい娘、(自分視点での)娘を愛する優しい母、(娘視点での)祖母を愛する異常な母、これらを別人のように演じていて素晴らしかったです。永野芽郁は正義感の強い役が似合いますね◎

観たあとすぐ母に電話をかけて、途中泣きながら感想を伝えました(笑)母から認められたいと思ったことはほとんどなかったけど、私も昔はよく母に学校から帰ってきたあといろんな話聞いてもらってたな〜。それに、母とこの映画の評価が同じで嬉しい自分がいました(笑)ちなみに母には「反抗期があって良かった」って言われました(笑)私の反抗期を乗り越えてくれたお母さんありがとう🫶🏻私も母を愛しているけど、自分自身を軸にして、自分で自分を認めてあげられる人でいたいです。

最後!上手く言えないけど、この"母性"を女性や母親だけのものみたいに認識してほしくないな。ただ対象が違うだけで意味は同じの"父性"に今回は全くスポットが当てられていなかったけれども。私含め、この映画を観た人にはせめて、そういう価値観から脱却してほしいと思う。意味を"無償の愛"だと捉えれば、娘だって母に無償の愛を与えていて、ある意味娘が母に母性を向けていたのだから。
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