黄金綺羅タイガー

大河への道の黄金綺羅タイガーのレビュー・感想・評価

大河への道(2022年製作の映画)
3.1
現代の話に江戸の劇中劇という不思議な構成だなと思っていたら、原作が志の輔師匠の落語だとか。
落語だとするといろいろ合点がいく構成だ。
現代劇では伊能忠敬という人の説明と地図作りの科学的な説明というマクラ、時代劇では人情噺という役割分担が成されていて時代劇にスッと入っていける。
生真面目な振り回される主役と、とぼけたお付きの狂言回しという配役はまさに落語のそれだ。
ラストもやたらサラッと終わったなとは思ったが、落語のオチと考えればあれは正解だ。

キャスティングは現代劇と時代劇をこなせる器用な役者を揃えている印象だ。
現代のときと、江戸のときではガラッと印象が変わって見える演技達者な人たちばかりだ。
しかし、そのなかでも北川景子はすこし厳しい感じがあった。
江戸時代のエイは伊能忠敬の元妻という背景もあるし、江戸時代の中年女性ということを考えると、北川景子があの役をするにはすこし若すぎる。
演じた役も、現代ではキツめのハイキャリアの女性で、江戸では胆っ玉の座った女傑という、双方強い女性ではあるが、強さの印象が違う二人の女性を演じるにはそれぞれの差をもっと出さないといけなかったとも感じる。
そして、時代劇を演じるには場面場面でもう少し抑えるところ、強調するところのメリハリをつけなくてはいけなかったし、台詞の抑揚も気をつけなくてはならなかった。
北川景子はバラエティなどでキャッキャ笑っているときの笑顔は素敵だし、ドラマや現代劇ではそう違和感のないときが多い。
そしてその美しさや画面にいるだけで華がある感じは寅さんのヒロイン的な、またはボンドガール的なアイコンとしては最適な女優だと思う。
すこし厳しい感じはあるとはいえ、本作でもがんばって役を全うしようとはしていたので、決して悪い女優ではないのだろう。
しかし彼女はまだ今の段階ではそう器用にいろいろ演じられるほうではないと感じる。
経験を積ませたいという方針は解るが、周りは北川景子をもう少し大切にしてあげたらいいのに、と僕は思う。

しかし二時間ちかい映画に出来てしまう創作落語って、どれだけ練り込まれた話の構成なのだと、俄然原作の落語に興味が出たし、それを作り上げてしまう志の輔師匠の見識の深さに改めて驚いた。
これを映画にしたいと思った中井貴一の閃きもすごい。
伊能忠敬も然り、なにかにときめいて、なにかを創り上げるということはいくつになってもやめてはいけないな、と感じた。